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VOL25 : ポリフェノールの反応性から見る食品の機能

食・健康科学講座 教授 増田 俊哉

はじめに
  今では,食品の機能性成分としてポリフェノールという物質名を知らない人はいないでしょう。ポリフェノールは,本来植物性食品の渋みやえぐみの原因とされ,それほど有用な成分とは考えられてこなかったものです。しかし,現代人の食生活の変化に伴い,食品に健康機能が期待されるようになり,その機能性成分としてポリフェノールが着目されています。 ところで,健康機能が期待されるポリフェノールは,薬局で出してくれる薬と全く違うところがあります。それは,ポリフェノール自体,それほど安定ではなく,さらにその不安定性(別の見方からすると高い反応性)により,機能を示すことがあると言うことです。食品(物質としての名称,人からは食物と言います)は,食材を加工や調理して作ります。また,長く食べることができる状態を保たせるのは大変です。ということは,食材中の成分は,このような過程で変化する可能性があり,とりわけ,ポリフェノールは変化しやすいといえます。食品機能化学研究室ではこの様なポリフェノールの化学的性質に着目して研究を行っています。


不飽和脂質酸化抑制の機構
  ポリフェノールの定義は,芳香族環に2つ以上のフェノール基を有する物質です。なお,高い機能が期待できるものは,少なくとも2つのフェノール基が共役関係にあるものです。カフェ酸やフラボノイドの多くがこの化学構造を持ちます。なお,これらのポリフェノール性O-H結合の解離エネルギーはモノフェノール性O-H 結合よりも低く,容易に結合開裂が起き,周りのラジカル種に水素原子を供与し,自身がラジカル物質になります。そしてその後ラジカル開裂反応,付加反応,他のラジカル種とのカップリング反応により,安定な物質に変化して行きます。このようなポリフェノールがラジカル種となる反応による直接的な機能の代表例が抗酸化性です。
  図1は,クルクミンが不飽和脂肪酸のリノール酸の酸化を抑制する抗酸化反応を解明した結果の図です。クルクミンには,様々な食品機能があり,ある食品メーカーの商品でも最近有名になっています。また,香辛料・ターメリックの色素としてカレーの黄色といえば身近に感じてもらえるかもしれません。クルクミンは図の反応メカニズムの様に脂質酸化物である過酸化ラジカルと反応し,3環性の複雑な物質に変わります。このような脂質抗酸化反応は,他のポリフェノール,たとえばカフェ酸などでもおきるようです。さらに,最近,タンパク質のチロシン残基でもおきることが報告されています。
図1 クルクミンの脂質抗酸化反応メカニズム
[R= ―CH2COCH=CHC6H3(3-OCH3)(4-OH)]


酸化的成分間反応と機能
  ポリフェノールの不安定性は,食品中や生体内においても容易に酸化物を生成することになります。特にカテコール構造(1,2-ジフェノール構造)を有するポリフェノールが酸化されるとカルボニル基を有するオルトキノン物質が生成しますが,このキノン物質の反応性は高いため,アミノ酸やタンパク質など求核性の置換基を有する食品の主要成分と容易に反応します。このようなアミノ基―カルボニル基間でおきる脱水反応を伴う成分間反応は,アミノカルボニル反応(メイラード反応)として知られ,食品においてメラノイジン,生体においてはAGEsを生成します。ところで,化学的にはアミノ基よりもチオール基の方が求核反応性は高く,このチオール基を持つアミノ酸のシステインはタンパク質やペプチドに広く存在しています。最近,細胞内において,Keap1と呼ばれるタンパク質が酸化ストレス防御遺伝子群の発現に関与していることが知られるようになりましたが,このKeap1が酸化ストレスセンサーとして働くときに,内部のシステインのチオール基が,ポリフェノール酸化物と反応することが重要であると考えられています。
 ところで,システインは容易に酸化され,S-S結合を介した二量体のシスチンとなりますが,その速度は通常のポリフェノールの酸化速度より速いとされてきました。しかし,システインのアミノ基とカルボキシル基にある種の置換基があると,システインのシスチンへの反応速度は急速に低下するようです。しかし,求核反応性は変わらず残ります。これを前提に,抗酸化機能の高いポリフェノールであるカフェ酸類に対して,システインのアミノ基をベンゾイルアミド,カルボキシル基をエステルとした脂溶性ペプチドモデルを共存させて用いて抗酸化性を測定すると,ポリフェノールの抗酸化性が増強することがわかりました(図2)。その理由はカフェ酸やジヒドロカフェ酸のベンゼン環にシステインが置換する(実際は,酸化生成物であるキノンに付加)ことにより抗酸化性(抗酸化持続時間)が増大したためと考えています。
図2 システイン誘導体によるポリフェノール・カフェ酸エステルの脂質抗酸化機能の増強
(Y軸は脂質酸化物量,X軸は抗酸化持続時間)
  このような,システインとポリフェノールとの反応は,食肉色素ミオグロビンの鮮赤色の発色と維持にも有効のようです。ミオグロビンは,ヘム鉄を含むタンパク質で,中心鉄イオンの状態がその発色に深く関わっています。鉄イオンが還元状態のII価で,さらに分子状酸素を配位すると,オキシミオグロビンができ,食肉の新鮮さをイメージする鮮赤色を示します(肉のブルーミング現象)。その一方で,鉄イオンがIII価に酸化されると褐変化し,新鮮さを失うとともに,同時に発生する活性酸素による食肉の品質劣化につながります。その褐変化防止を目的に,鮮赤色のオキシミオグロビンにポリフェノールを加えてその色の保持能を調べましたが,鮮赤色の褐変化を防ぐことはできず,むしろ酸化を誘導し,褐変化を促進してしまうことがわかりました。理由としては,ポリフェノールが一部酸化されて生じたキノン性物質がミオグロビンと反応して色素を不安定化するためと考えられました。そこで,そのキノン性物質と素早く反応するSH基のあるシステインを共存させると,今度は,ポリフェノール本来の還元能の高さにより,褐変化したミオグロビン(メトミオグロビン)を鮮赤色のオキシミオグロビンに変えることができる用になりました。結果としてポリフェノールにより肉の鮮赤色を維持することが可能になる道が開けました。このようなポリフェノールの高反応性による機能は,食品の他の成分との協働により,より効果的になります。今,研究室では,食肉の新鮮色を維持する技術を開発すべく,変色の速いとされる魚の赤身で,実際にその効果を確かめています。(図3
図3 ポリフェノールーシステイン(SH)による魚肉の鮮赤化メカニズム


ポリフェノールの変化と健康維持が期待できる新機能の発生
  ポリフェノールの高い反応性は,もとのポリフェノールの化学構造と機能を変化させることになります。食品(食物)は食材を加工・調理したものですから,ポリフェノールのような食材中の機能性物質は食品になるときに減ってしまっています。これまでの多くの食品学の研究は,それを減らさない方向で研究されてきました。しかし,考え方を逆転するとポリフェノールの高反応性は,加工や調理方法次第で新しい機能を発現する可能性があるとも言えます。たとえば,ワインのポリフェノールで有名なレスベラトロールは,その構造が変化した物質の方が各種機能は高いようです。そこで,各種のポリフェノールを酸化反応させた物質の機能を調べて見ました。そうするとチロシナーゼ,リポキシゲナーゼ,キサンチンオキシダーゼ等の酸化還元酵素や,α-グルコシダーゼやリパーゼなどの加水分解酵素の阻害能が認められ,その機能発現関わる生成物の化学構造を解明するに至りました。その一つを図4に示しています。CAFOX-1と命名したこの物質は,カフェ酸の酸化反応で得られた強力なキサンチンオキシダーゼ阻害物質です。キサンチンオキシダーゼは,ヒトのプリン体代謝経路において最終代謝物である尿酸を生成する酵素で,体内の過剰な尿酸は痛風や高尿酸血症の原因となります。痛風は古くから認められている病気ですが,近年食生活の変化により患者が急増しており,生活習慣病の一つです。
図4 CAFOX-1 の化学構造式
  ところで,2007年にアメリカの疫学研究者が,コーヒーの飲用習慣が痛風の発症抑制に有効との結果を発表しました。この結果は,その後,日本でも韓国でも事実と確認されています。痛風発症抑制の一つの方法は,先ほど述べたキサンチンオキシダーゼ(XO)を阻害して尿酸の過剰な生成を止めることです。そこで,コーヒー豆(生豆)の成分を抽出し,XO阻害能を調べましたが,全く認められませんでした。ところが,焙煎加工したコーヒー豆を抽出すると,その熱水抽出物にXO阻害能が認められたのです。飲用するコーヒーは,コーヒーの生豆を200度近く加熱する焙煎加工をしたものを使います。この高温加工で,あのコーヒー独特の風味が発生し,世界で最も消費される飲料となっていますが,コーヒー豆の焙煎は,その風味だけでなく,痛風発症を防止する効果ももたらすことが考えられるのです。コーヒー豆には,糖質やタンパク質以外にもカフェインやポリフェノールの一つであるクロロゲン酸が含まれています。焙煎加工においては,ポリフェノールや糖質の量が顕著に減ることが知られていますので,その過程においてポリフェノールから生成する物質は,痛風発症抑制に寄与する可能性が大いにあります。現在,研究室では,コーヒーの焙煎によって生じるキサンチンオキシダーゼ阻害物質の特定を,コーヒー飲料メーカーと共同研究で進めており,近い将来,痛風を予防する生活習慣病予防機能コーヒーの開発ができるかもしれません。


おわりに
  ある研究者が,ポリフェノールをキーワードに,学術論文の発表数を調査したところ,1990年代前半までは年間の論文数が500に満たないが,その後急激に数が増えていることを報告しています。(図5)もちろん,1990年代までは,ポリフェノールという名称が現在ほど一般的でなく,単に植物の成分研究として行われていたことによります。ところが,日本から始まった機能性食品研究において,ポリフェノールは食品による健康維持・増進機能に関する鍵となる成分の一つとなりました。しかし,ポリフェノールの反応性の高さは,その機能解析が一筋縄ではいかないことを意味します。今でも,まだまだわからないことがたくさん有り,今後も研究室では物質エビデンスに基づく,いわゆる化学的な情報の蓄積を進めて行く予定です。
図5 ポリフェノールをキーワードにした学術論文発表数
Quideau et al. Angew.Chem. Int. Ed. 2011, 50, 586より改変。


【参考文献】
  本田沙理,増田俊哉,ポリフェノール,化学反応を基盤とする機能性物質,抗酸化反応から成分間反応まで,化学と生物53,442−448(2015)

(2016.11.04)

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