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VOL24 : 地域住宅市場の解明

居住環境学講座 教授 多治見 左近

はじめに
  快適な住宅に住むことは多くの人の関心事です。かつて、第2次大戦直後の大都市では住宅戸数自体が不足していた上に狭小で粗末な木造住宅が多く、住宅建設は大きな社会的課題でした。高度経済成長期を経て、多様でそれなりの水準の住宅が建設されました。もちろんホームレスや脱法ハウス、一方で空き家化といった深刻な問題が今日でも浮上してきていますが、都市居住者のほとんどが住宅難で苦しむという状況は脱したといえます。
 居住者がふさわしい住宅に住むこと、あるいは住宅需要と供給との関係が適切に保たれることは今日にも続く課題です。この関係のことを住宅市場とも言いますが、住宅市場は地域や時代によって変わります。それを解明して適切な関係を導くことは私たちの分野の課題の一つです。


住宅の建設・供給と人口 −需要と供給
  戦後の住宅着工戸数の推移をみると図1のようです。全国的に高度経済成長期やバブル経済期などに着工戸数が増えていますが、その後は上下動を繰り返しながら1990年以降は徐々に減少してきています。時期的には、1970(昭和45)年ぐらいまでと1980年代後半ぐらいは貸家の割合が高くなっています(「持ち家」は注文住宅の持ち家のことです)。
図1(1) 住宅着工戸数の推 移(全国)
図1(2)住宅着工戸数の推移(大阪府)
  その理由は当時の人口構成と地域経済にあります。図2は三大都市圏の転入超過(転入数−転出数)の推移です。戦後まもなくから1970(昭和45)年ぐらいまでの期間は都市圏への著しい転入超過がありました。都市圏の住宅は、もともと木造・小規模で、それなのに同居などが当たり前でした。戸数も十分ではなかったうえに戦災で多数が焼失していました。そこに地方からの転入が増加して住宅が甚だ不足しました。図1は、そのためにとりわけ貸家が大量に建設されたことを示しています。
図2 三大都市圏の転入超過の 推移
図3 人口の年齢構成推移(全国)
  ただ注意しなくてはならないことは、大量の住宅建設は当然ながら転入が多い都市部に偏った現象だったということです。そのことに対しては、図3の人口構成の特徴も決定的な影響を与えました。つまり、その時期には堺屋太一氏から「団塊の世代」と呼ばれた1940年代後半生まれの世代などの若い世代が人口の大きな割合を占めていました。それらの若い世代が20近くにわたって大挙して都市圏に集中しました。彼らは、経済面では日本の経済発展の中心を担ったとともに、地域 的には都市圏で膨大で旺盛な住宅需要を生み出したといえます。
 都市に流入した若年者は時代とともに成長し、世帯形成し子供を育てるようになります。図1に戻って、1970年代以降、持ち家や分譲住宅の建設が増えてきているのは、転入当初には同居や寮、安い借家に居住していた若者が、世帯形成などをして持ち家などを需要していったことを反映しています。とりわけ大阪府(図1(2))は都市圏の一部ですから、その特徴が顕著だと思います。ちなみに1980年代後半に貸家戸数が増えているのは「団塊ジュニア」世代が現れたことと、1970年頃までにつくられたトイレなどの設備のない木造アパートが老朽化し、あるいは人気がなくなり、若年単身者の住まいとしてワンルームマンションなどが建設されたためです。


地域での人口構成の変化
  ところで、都市部に若年者が増えて貸家が建設され、彼らは成長して一部は持ち家取得などを行ったと言いましたが、全国的にはそれぞれの世代にどのような動きがあったのでしょうか。すべての地域を確認することはできませんので典型的な都道府県(東京都・島根県・埼玉県)を図4に示しました。図4はコーホートという方法で作成しました。人口学でいうコーホートとは同一時期に出生した世代の時間経過による変化に着目した分析方法です。3つのグラフは、それぞれ横軸が1950年から2005年まで5年ごとの時点、縦軸が年齢層を合計した総人口です。面グラフの各色が5歳階級のコーホート世代になっています。面グラフの各色の幅(高さ)が変化しているのは、横軸の年次にその世代の増減(社会増減・自然増減)があったことを表します。
 まず人口最多の東京都ですが、1970年代まで総人口が急増しています。それは1920年から1950年代生まれの世代のそれぞれが20歳前後になるころから増えていることに原因があると読み取れます。しかし東京都の人口は1980年頃になると頭打ちになります。若い年齢層では一定の流入があるのに、壮年期以降の年齢になると減少しているからです。最近はやや異なる状況が現れていますが、1970年から2000年頃までの東京都は若年層が転入し、壮年層以降は転出することで人口総数としては均衡していたといえます。その結果、住宅としては、若年層から、持ち家取得する前の壮年層が主要な供給対象だったといえます。
 島根県は人口が減少傾向です。ただし1955年までは増加していました。1960年以降、各世代とも15〜20歳ぐらいの年齢層に達すると転出するという状況がありました。おそらく就学・就業機会を求めて都市圏に転出したとみられます。30歳前後に少し戻していますが、かなりの部分は減少したままです。若年での転出傾向は次第に小さくなっているようですが、出産可能人口が減少しているため、出生数自体が次第に減少してきています。とすると住宅供給も縮小せざるを得ません。
 埼玉県は首都圏の郊外部に位置し、一貫して人口が増加しています。特徴的なのは、1930年以降に生まれた世代が、年齢を加えるにつれて増加していることです。東京都から壮年になって転出していった先の一つが埼玉県であることが容易に想像できます。彼らが求める住宅は東京よりも広く環境のよい住宅で、その多くは持ち家だと想像できます。
 なお、図4はこれだけでもさまざまなことがわかり、おもしろいと思いますが、住宅などとの関係を研究するには情報量が多すぎます。もう少し操作しやすい方法を開発する必要があります。
図4 同一年齢層(コーホート)の人口推移


居住世帯の地域性
  話は変わりますが、住宅政策や住宅供給計画はこれまでも作成されましたが、なかには全国一律で地域の実情に合わないものや、特定の地域を想定した施策が全国的に展開されるものもみられました。当然ながら地域によって状況や条件・背景はずいぶんと異なります。と言っても地域の違いだけを強調すると、基準とするものがなくなって、何かしようにも根拠がないと言われかねません。要は、全体のことをわかった上で、特定地域がそのなかでどのような位置にあるかを把握することが必要です。しかし住宅市場にはそのような知見が乏しかったというのが実態でした。地域での居住者・住宅のようすはどうなのでしょうか。
図5 都道府県別の平均主齢と
 住宅種別の主齢偏差
  図5は、居住世帯の世帯主の住宅種別平均年齢(主齢)を、都道府県別に表したグラフです。マーカーが住宅種別を表しています。このグラフの特徴は、横軸に都道府県別の全住宅の平均主齢をとって、縦軸に都道府県別の住宅種別平均主齢と全住宅平均主齢との差(偏差)をとっていることです。私はこの偏差を「地域住宅市場内偏差」と呼んでいますが、長すぎるので「偏差」と省略します。
  このグラフからは、まず各都道府県の高齢化がどの程度進んでいるかがわかります。次に、そのなかで各住宅種別の居住世帯が相対的に高齢なのか若いのかがわかります。また住宅種別平均主齢絶対値は横軸のメモリ値と縦軸のメモリ値の合計ですので、さほど苦労をせずに知り得ます。
  グラフではマーカーごとに分布が分かれています。下方(偏差マイナス)が都道府県平均よりも居住世帯が若い方に偏る住宅種別、上方は高齢に偏る住宅種別になります。住宅種別のマーカーは各都道府県に6個ありますが、都道府県別の平均主齢は同じですから、同じ平均年齢の縦の線上に一つの都道府県の住宅種別マーカーが位置しています。
  平均主齢の場合の住宅種別のマーカー分布で興味深いのは、とりわけ借家でおおむね右下がりに分布していることです。グラフの目盛りは縦軸と横軸とで同じにしていますから、右下がり45°の線上にマーカーが位置していたとすると、都道府県に関係なく、あるマーカー(住宅種)の平均主齢が同じであることを示します。
  図5には都道府県名を省略していますが、平均主齢が若いのは都市部、高いのは非都市部です。一番若いのは東京都ですが、そのなかで公営借家の偏差が著しく大きいこと、つまり高齢であることが特徴的です。また平均主齢が2番目に高い島根県の民借・共同・非木造の居住者が他都道府県に比べて著しく若いこともわかります。
  ・・・というように一つ一つ見ていくときりがありませんが、私はこのうちの公営借家に着目して都道府県の特徴を分類するという報告を行いました(日本建築学会計画系論文集,2015年5月)。


おわりに
  私は、市町村や都市圏ぐらいの範囲から全国の範囲まで、長年住宅市場の研究をしてきて、感覚的にはそのメカニズムを理解しているような気がしていますが、その裏付けを示すのはなかなか困難です。ご紹介したような方法を編み出しながら研究を深めたいと思っています。

(2016.07.01)

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