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VOL22 : 食品成分の未知なる力 〜生活習慣病を予防する食品成分の作用メカニズム〜

食・健康科学講座 准教授 小島 明子

1. はじめに
  食品成分の未知なる力とは〜それは、病態改善や疾病予防という私達が健康長寿をめざすために最も重要であり、必要不可欠なものです。
  食品中に含まれる物質は、生体内で分解され、栄養素として生体構成成分の素材を補給するという役割と生命現象を営むうえに必要なエネルギーを供給するという役割を持っています。しかし、食品中にはこれらの役割以外に私たちの健康の維持に重要な役割を果たす不思議な成分が含まれています。
  「食と健康」は切っても切り離せないものです。一方では、過食による肥満、糖尿病、動脈硬化などの生活習慣病発症の原因ともなってしまいます。しかしながら、食品成分がもつ本来の機能を活かして私達の健康を維持することができます。
  このような生体機能調節因子の構造やその作用メカニズムを明らかにすることは、私達の健康を増進させるために非常に重要なことです。
  では、一体どのようにして? そういう疑問を解明していくことが、私達にかせられた使命です。
  私達の研究室では、生活習慣病として、ガン、肥満、炎症性肝疾患、神経変性疾患に着目し、これらの疾病に対して予防効果を有する食品成分の探索とその作用メカニズムに関する研究を行なっています。今回は、アルコール性肝疾患を予防する食品成分に関する研究を紹介いたします。


2. お酒と肝臓
  飲酒はその形態によって「百薬の長」にも「万病のもと」にもなることが、疫学的研究によって明らかにされています。食生活や生活習慣の欧米化に伴って、わが国におけるアルコール消費量や飲酒者数は、広がりをみせてきましたが、平成24年国民健康・栄養調査結果では、飲酒習慣のある者の割合は、男性34.0%、女性7.3%と、ここ10年間の数値に大きな変動はありません。また、生活習慣病のリスクを高める量「1日あたりの純アルコール摂取量が男性40 g(清酒換算2合)以上、女性20 g(清酒換算1合)以上の飲酒量」を飲酒している者の割合は、男性14.7%、女性7.6%と報告されています。また「健康日本21(第二次)」では、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の減少を平成34年度には男性13%、女性6.4%の目標に揚げています。しかしながら、平成25年国民健康・栄養調査結果において、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を正しく知っている者の割合は、男女とも30%以下であるため、1日平均純アルコールで約20g程度とした節度ある適度な飲酒量を知る必要があります。
  アルコール代謝を担う臓器は肝臓です。アルコールを常習飲酒すると、アルコール性脂肪肝が発症します。さらに、そのまま節酒や断酒せずに飲酒を継続し続けると、アルコール性肝炎、アルコール性肝線維症を経て、アルコール性肝硬変へと進展することが知られています。日本人における肝硬変の成因として、B型、C型などの肝炎ウィルスに起因するものが大部分を占めますが、非B非C肝硬変全体では、アルコールが原因となって発症する割合が最も多いこと、さらに、アルコール性肝硬変から肝ガンを併発する割合もB型およびC型肝炎ウィルスに次いで多いことが社会問題となっています。
  肝臓を構成する細胞として、栄養素およびアルコールの代謝や解毒を司取る肝細胞の他に、4種類の肝類洞壁細胞(類洞内皮細胞、Kupffer細胞、肝星細胞、pit細胞)があります。肝硬変は臓器内に多量のコラーゲン線維が産生されるため、肝機能が正常に機能しなくなる疾患ですが、そのコラーゲン線維を産生する中心的な役割を示すのが肝星細胞です。肝星細胞は、多量のアルコールなどの刺激を受けてコラーゲン合成能が亢進することから、肝線維化さらには肝硬変の直接的な原因となることが知られています。そのため、肝硬変の進展予防には、肝星細胞のコラーゲン合成能を抑制することが重要です。
  アルコールは通常、アルコール脱水素酵素 (alcohol dehydrogenase: ADH) 経路を介して代謝されます。すなわち、アルコールはADHによってアセトアルデヒドに代謝され、アルデヒド脱水素酵素 (aldehyde dehydrogenase: ALDH) によって酢酸に分解されます。しかしながら、多量のアルコールでは、ADHだけでは処理しきれないため、ミクロゾーム・エタノール酸化系 (MEOS) を介して代謝されます(図1)。MEOSでは、薬物代謝酵素であるcytochrome P450 2E1 (CYP2E1) がアルコールをアセトアルデヒドに代謝しますが、その際、活性酸素種 (reactive oxygen species: ROS) が産生されるため、肝細胞障害を誘導する原因となります。エタノールの代謝産物であるアセトアルデヒドが肝炎の主な要因であるとされてきましたが、近年、アルコール性肝炎の原因として、CYP2E1によって産生されるROSが大きな役割を果たしていることが明らかにされています。  
図1. アルコールの代謝経路


3. マテ茶抽出物によるアルコール性肝疾患の予防効果
図2. マテ(イェルバ・マテ)
  マテ茶は、コーヒー、紅茶とともに世界三大飲料の1つにあげられます。
  マテ茶は、モチノキ科の常緑樹であるマテ(イェルバ・マテ 学名:Ilex paraguariensis)(図2)の葉や枝を乾燥させた後に破砕し、精製したものです。マテは、南アメリカのイグアスの滝を中心としたブラジル南部、アルゼンチン、パラグアイにまたがるテラ・ロッサと呼ばれるミネラルが豊富な土壌でのみ植生します。
図3. マテ壺とストロー
  マテ茶は、主にアルゼンチン、ブラジル、パラグアイやウルグアイにおいて伝統的な飲料として広く飲用されています。マテ茶の伝統的な飲み方は、マテ茶を「クイア」や「グアンボ」などと呼ばれるひょうたん型のマテ壺に入れ、その上から水または熱水を注いで抽出し、「ボンバ」や「ボンビージャ」などと呼ばれる金属製のストローを用いて飲用します(図3)。
  私達は、マテ茶抽出物のアルコール性肝疾患予防効果について、肝細胞を用いたin vitroアルコール性肝細胞傷害モデルとin vivoアルコール性肝疾患モデル動物を用いて検討しました。一般に大量飲酒者の血中エタノール濃度は100〜200 mMと報告されているため、本研究では、100 mMエタノールを用いました。肝細胞の培養液に100 mMエタノールを添加して24時間培養したときの細胞生存率は有意に低下しましたが、マテ茶抽出物はエタノールによって低下した肝細胞の細胞生存率をコントロールレベルまで回復させました。そこで、マテ茶抽出物によるアルコール性肝細胞傷害に対する予防効果のメカニズムとして、アルコール代謝経路に着目したところ、マテ茶抽出物は、ADH活性を亢進させる一方で、ROSを産生するCYP2E1の発現を抑制することによって、酸化ストレスを消去していることが明らかとなりました。次に、アルコール性肝疾患モデル動物にマテ茶抽出物含有食を3週間摂食させたところ、コントロール食を摂食させた場合では、肝障害のマーカーである血漿中ALTおよびAST活性が著しく亢進し、さらに肝組織において肝線維化を発症していたのにかかわらず、マテ茶抽出物含有飼料を摂食させた場合では、ASTおよびALT活性は有意に低下し、肝組織像も正常な形態を示していました。これらのことから、マテ茶抽出物は、細胞レベルのみならず、動物レベルにおいてもアルコール性肝疾患の予防効果を有することが明らかとなりました。


4. おわりに
  2014年5月7-10日、ウルグアイにて ”VI South America Congress of Mate and II International Symposium of Yerba Mate and Health”(第6回南アメリカマテ学会および第2回国際マテと健康に関するシンポジウム)が開催され、シンポジストとして招待され、本研究内容について講演をいたしました。
  また、アルゼンチン、ミシオネス州ルイス・デ・モントージャ農業協同組合に招待されました折、ルイス・デ・モントージャ村の村長さん曰く、「アルゼンチンはガウチョの国。彼らはお酒を非常にたくさん飲む。だが、肝臓を悪くしないのは、あなたの研究通り、マテ茶をたくさん飲んでいるおかげだね。」
  医学や生化学、栄養学などの知識が豊富ではなく、科学的根拠などを調べることができなかった時代から、マテ茶の効果をいにしえの人々はすでに知っていたのでしょう。これからも、疾病予防効果や健康増進作用を有する食品成分を見出して、その作用メカニズムについて研究を続けていきます。

(2015.09.11)

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