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VOL18 :思春期のための健康栄養教育

千須和 直美

はじめに
  思春期は身体的・精神的成長に伴い自立度が高まると同時に,小学校から中学校,そして高校へと進むにつれて,周囲の人々や社会とのかかわりが拡大する動的な時期です。元来,思春期は家族・友人・メディア等の外的要因から影響を受けやすいことに加え,習い事や塾などに費やす時間の増加やメディア利用の増加などのライフスタイルの変化により,子どもたちは不健康な行動をとりやすくなる傾向にあります。食行動においても,学童期からの朝食欠食や好き嫌いといった問題に加えて,体型への不安に起因するダイエットの増加や,家族との共食機会の減少など,単なる知識不足では解決できない複数の要因が重なった不健康な食行動があらわれてきます。これらの食行動問題の要因を多角的に理解し,適切な健康栄養教育プログラムを開発・実施することが求められています。


思春期のボディイメージとダイエット行動
  思春期の食行動の問題のなかでも,特に女子でのダイエット行動の広まりは深刻な問題です。ダイエット行動を考えるうえでキーワードとなるのが,ボディイメージです。ボディイメージとは,「心で作られる身体のイメージ,つまり自分自身に見えているイメージ」のことで,例えば,普通体型の人であったとしても,「自分は太っている」と思い込んでいることがあります。これはボディイメージのゆがみと呼ばれる,問題の一例です。
  ボディイメージの問題は小学校5・6年より増加する傾向にあり,平成22年の小学生〜高校生を対象とした全国調査では,高校生女子全体では「かなりやせたい,少しやせたい」と回答した者の割合は86%にものぼることが報告されています。また,ダイエット経験がある中学生は男子8.5%,女子27.2%,高校生では男子11.1%,女子40.4%にのぼるという報告もあり,思春期にボディイメージの問題に起因した必要でない不健康なダイエットが蔓延してきています。思春期のダイエット行動は,成長に必要な栄養が不足するだけでなく,摂食障害,体重増加,女子では月経不順や低体重出生児出産のリスクの増加へつながることから,予防すべき重要な課題として位置づけられるべきといえるでしょう。


メディアリテラシーアプローチ
  では,どのような教育アプローチを用いて思春期の食行動問題の改善をはかるのがよいでしょうか。ここでは当研究室で取り組んでいる新たなアプローチの一例“メディアリテラシー”についてご紹介します。
  近年のメディアの発達により,子どもたちにとってメディアは身近になりました。便利になった反面,健康への影響が懸念されています。食への健康も例外ではなく,「○○ダイエット」,「期間限定フレーバー」などといったメディア情報によるダイエットや食品選択への影響,メディアのやせイメージによるボディイメージへの影響,メディア利用の増加による運動不足など,影響は多岐にわたります。
  特にダイエットを考えた場合,メディアメッセージはステレオタイプを含むことが多く,特に女性のイメージは,やせ理想を誘発するメッセージが多く伝えられています。このようなメディアの影響を軽減するには,メディア情報に接する際に,社会的なやせ理想に対し批判的な視点を持ち,情報を主体的に読み解く力,“メディアリテラシー”を身につけることが有用となります。栄養や健康に関する知識に加え新たなスキル形成を行うことで,思春期の様々な健康課題に対応できることが期待されます。参考として,当研究室のプログラムで行っている学習のステップを図に示しておきます。






Body Eating and Mind: BEAMプロジェクト
  同様の問題を抱える海外では,思春期を対象としたボディイメージやメディアリテラシー教育を取り入れた包括的な健康教育を組織的に展開しています。そこで,これらの教育プログラムの枠組を学校現場で利用可能な形へ応用し,現在大阪府下の公立中学校を対象として“Body, Eating and Mind: BEAM(ビーム)プロジェクト”と題した健康栄養教育プログラムを試行しています。BEAMプロジェクトは,中学校保健体育科と連携し,友人やメディアの影響への対処スキル形成,健全なボディイメージ形成,健全な自尊心の向上といった,様々なレベルでの食に関する主体的な学びと実践により健全な心身を育む,新たな包括的健康栄養教育の展開を目指すものです。

【Keyとなる内容】
B Body 思春期の成長を理解し,適正なボディイメージを育てる
E Eating 食べることの大切さ,食が持つ多様な機能について考える
M Mind 心と体の健康が満たされてはじめて,健康であるということを再認識する
自己肯定感を高めることにより自身と他者への受容度を高める

  「健康的に食べることが,身体とこころの健やかな成長をつなぐ」,そんな思いが思春期の子どもたちへ届き,ポジティブなボディメージと食態度の形成によって子どもたち自身が主体的に健康的な行動をとることができるよう,楽しく学べる教育プログラムの作成,普及に日々取り組んでいます。


(2013.10.01)


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