トップページ研究だより一覧>研究だよりVol.17

生活科学最前線!研究だより 【研究だより一覧】へ

VOL17 :施設コンフリクトとリスクコミュニケーション

人間福祉学科 准教授 野村 恭代

1. 施設コンフリクト
  まず、「コンフリクト」とは、端的に表現すると「争い」や「紛争」などの状態のことをさしますが、さらに厳密に言うと@二者間以上の間で生じ、A両者の目標とする方向が異なっており、Bその目標を追求しようとするときに生じるものです。また、すべてのコンフリクトの定義に共通する見解ではありませんが、コンフリクトは「個人内の対立状態(葛藤状態)」の場合もあれば、「集団間である場合(対立、紛争)」もあり、コンフリクトはミクロからマクロまでさまざまなレベルで生じるとする意見もあります。
  次に、「施設コンフリクト」とは、いわゆる「迷惑施設」に対する地域住民と施設建設者側との紛争や闘争等を表す言葉です。迷惑施設にはさまざまなものがあります。近年、問題となっている原子力発電所や米軍基地なども迷惑施設として認識される場合が多くあります。ごみ処理場や火葬場などに対しても、地域住民からの反対運動等が起こることは多々あります。また、社会福祉施設に対しても、施設コンフリクトが起こることがあるのです。


2. 社会福祉施設をめぐる施設コンフリクト
  社会福祉学分野の研究では、現在においてもコンフリクトは避けるべきものであるとみなす見解が有力です。そのため、施設コンフリクトを体系的に扱った研究は限定されています。また、これまでの施設コンフリクト研究の大部分は、いわゆる「環境施設」であるごみ処理場や火葬場などを対象としており、それらのコンフリクト問題については、さまざまな手法を用いて、どのようなプロセスによって合意形成に至るのかなどに関する研究が多くみられますが、社会福祉施設を対象としたこれらの研究はほとんどありません。しかし、実際には社会福祉施設においても施設コンフリクトは発生しており、その合意形成プロセスを解明する必要があります。そこで、実際に施設コンフリクトが発生した施設を対象に調査を実施しました。


3. コンフリクト・マネジメント
  調査の結果、社会福祉施設における施設コンフリクトに対しても、環境施設でのコンフリクト・マネジメント手法の一つである、「リスクコミュニケーション手法」を用いたアプローチが有効であることが明らかになりました。このリスクコミュニケーションでは、コンフリクト当事者間の信頼の醸成を目指します。つまり、社会福祉施設における施設コンフリクトにおいても、当事者間の信頼が合意形成のための必要条件のひとつだと言えるのです。また、地域住民と施設及び施設関係者との信頼が施設コンフリクトの合意形成に重要な影響を及ぼしていると考えると、これまで社会福祉施設における施設コンフリクト解消のために必要だと考えられてきた施設および利用者への理解は、施設コンフリクトが解消されて合意形成に至り、施設が開設された後に時間をかけて形成されるものであると言えます。
  また、施設コンフリクト発生後は、地域住民−施設間の交渉ではなく第三者が介入することによって、客観的な立場で交渉を行うことが可能となり、その結果、施設コンフリクトは合意形成に至るということもわかりました。その際の仲介者の役割は、コンフリクト問題解消に向けたマネジメント機能を果たすことです。
  さらに、一般的に「信頼」の醸成には長期間にわたる安全実績と多大な努力を必要とするものの、その崩壊は一瞬の事故によって簡単に生じるとされてきましたが、地域のなかで長い時間をかけて醸成した「信頼」は、一つの事故などでは簡単には崩壊しないということも明らかになりました。また、施設建設後、地域住民の間に施設を媒介とした「つながり」がみられることもわかり、これまではいわゆる「迷惑施設」として認識されることの多かった社会福祉施設にも、地域のなかで「人と人とのつながり」という新たな資源を形成する要素となりうる可能性があることを示しました。


4. イタリアの地域精神保健
  ここで、これまでと話題は変わりますが、現在及び今後の研究に関してお伝えします。
  昨年度より、イタリアの地域精神保健に着目し、研究を行っています。イタリアには精神病院を廃絶することを明記した法律があります。1978年に制定された180号法(通称:バザーリア法)です。日本には現在、約35万床の精神病床があります。それに対して、イタリアはほぼ精神病床はありません。(写真1、2)
  では、なぜイタリアでは精神科病院に頼ることなく地域で精神保健サービスを展開することが可能となっているのでしょうか。その理由はさまざまありますが、私は特にイタリアの「人的資源」に着目しています。イタリアには、日本にはいない「専門家」がいるのです。それは、自身のこれまでの経験を基盤とした専門家です。彼らがイタリアの地域精神保健の展開にどのような役割を果たしているのか、また、日本にそのシステムを応用させることはできないか等を今後の研究課題として取り組んでいきたいと考えています。
写真1 精神保健センター(トレント) 写真2 La Casa del Sole(太陽の家)


(2013.07.01)


(参考文献)
  野村恭代『精神障害者施設におけるコンフリクト・マネジメントの手法と実践−地域住民との合意形成に向けて−』明石書店,2013.

【研究だより一覧】へ

 

back number