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VOL.7 : 既存家屋の再生について ―減築によるケーススタディ

居住環境学講座 助教 小池 志保子

はじめに
  住んでいる家を改善したいと考える時には、さまざまな選択肢があります。家を壊して建て替えることは、手っ取り早く簡単な方法ですが、増築や改築、引っ越しという方法もあります。さらに、最近では増築の反対、減築にも注目が集まっています。
  例えば、今年の8月には独立行政法人都市再生機構が減築の実験を行うことを発表しました。1960年前後につくられた団地のひとつが対象で、その4階建ての集合住宅の最上階を撤去して、多様な家族構成に対応できる様々な住戸形式を用意することが目指されています。この減築で想定されている利点としては、建て替えに比べてコストが押さえられることと、最上階の荷重が軽減されることによる耐震性能の向上などがあります。
  さて、今回の「研究だより」では、2006年に私が携わった住宅の減築事例を紹介します。減築では床面積が減ります。しかし、だからこそ豊かな住環境を獲得することが可能なのではないか、という考え方で計画したものです。
テラス室1の様子 扉を閉めた状態のテラス室2


減築計画の概要
  この家の敷地は、阪神・淡路大震災によって被害を受けた地域にあり、海に近い住宅街に位置しています。施主の住んでいた木造2階建の家屋も半壊指定を受けており、震災後、大幅な修繕工事を行っています。
  しかし、修繕後もつねに地震の不安が施主に付きまといました。例えば、経年変化と地震の影響により、床は傾き、建具のたてつけがわるくなっていたのです。また、今回の計画にあたり、床下を点検したところ、基礎には大きな亀裂があり、破断している箇所も見つかりました。
  このような状況を目の当たりにして、施主は建て替えるべきか、このまま住むべきかをずいぶんと悩まれました。とはいえ、数年前に他界した施主の両親や離れて暮らす子ども家族との思い出が詰まった家を安易に建て替える決心がつきませんでした。そこで議論を重ねた結果、今回の減築計画がはじまりました。
  広いこと、部屋数が多いこと。ともすれば、家の評価はこの2つで測られ、価格も決定されます。しかし、広いことと部屋数が多いこととは、必ずしも豊かな生活にはつながりません。なぜなら、住まい手によって、心地よい広さや部屋数というものが違うからです。
  今回の施主は、ひとり暮らしを楽しもうとしていました。このときに大きな負担となっていたのが、既存の家屋の大きさです。1日に1度も足を踏み入れない部屋が複数あったのですが、家を維持するためには、その部屋に風を通したり、掃除をしたりしなければなりません。そのことが施主1人の責任となり、それを背負って日々を過ごされていました。
  このような状況の中、「小さくすむ」ことを思い切って実行に移すことになったのです。これまでの数々の思い出を大事にしながらも、施主にとって快適でコンパクトなひとり暮らしのための家づくりが始まりました。

  計画のきっかけとなった要望
1、 既存建物の老朽化への対応(家屋の傾き、古い設備の取り替え)
2、 地震に対する安全性の確保(阪神・淡路大震災による精神的負担を軽減、建物の耐力不足を解消)
3、 住空間における快適さの改善(広すぎる面積をコンパクトにする、室内の薄暗さについての改善、頻繁に使用しない部屋のメンテナンスの軽減、人を招くことのできる家に)
4、 家族の思い出の尊重と脱皮(建物を壊さずに残すことで今後へと思い出を引き継いでいく、改築により自分の生活スタイルに合わせる)


計画の実施について
  実際の計画内容について説明します。計画の大きなポイントとしては、耐震補強を実施したことと、半屋外空間を設けたことの2つがあります。
  まず、木造の伝統工法を生かした耐震補強を施し、地震で受けたダメージを取り除きました。具体的には、構造設計者と相談しながら、既存の土壁の粘り強さを引き出すために次の補強を行いました。既存基礎に沿って新たな基礎を増し打ちする。地震による揺れを吸収する仕口ダンパーという金物を柱と梁の接合部に取り付ける。構造壁を追加して構造的な偏りを軽減する。減築に伴い、一部の瓦屋根を撤去し、屋根の重さを低減する。
  次に1階のみでコンパクトな生活を送れるようにしました。日常的に使用する空間を集約し、それ以外のあまり使用しない部屋を2階にまとめました。実際、2階は子ども家族が帰省する際に使えるように調整した以外は、ほとんど手を加えていません。
[図small_axsome]
[図small_plan]
  その上で、一般的なマンションの1LDKサイズの面積、約50uをコンパクトな生活の目安と捉えました。一人暮らしに必要な50uという面積を確保し、余剰部分はテラス室として使用します。テラス室は開放性を保つことで、内でもなく外でもない場所となっています。必要な時は屋内として扱うことができ、不要な場合は外部として忘れてしまうこともできます。そして、生活の場と庭との間の中間領域として、道路からの緩衝地帯として、新しい役割を果たします。さらに、1階の各部屋は、

庭 ←→ テラス室 ←→ リビング ←→ テラス室 ←→ 庭

  というふうに、回遊性を持つ構成としています。これにより、物理的な居室の面積が減っても広がりを感じることができます。「小さくすむ」ことで、縁側を拡大したような豊かな空間を作り、空間の利用効率を高めました。

  この計画後の住まい手の評価は次のようになっています。自分が求めるとおりの生活ができるようになったこと。家にまつわる精神的な不安が軽減されたこと。平面計画の変更により、自分の領域を確保できるようになったこと。近所との繋がりを感じられるようになったことなどです。

  「小さくすむ」ということは一概に悪いことではありません。むしろ、住まい手にとっての適切な大きさというものがあり、それを見つけることが豊かさに繋がるのだと思います。今回の減築により、採光や通風の環境が改善し、床面積が減ったことで熱効率もよくなりました。また、水回りの機能性や、心理的な安心感が向上しました。

  この家は、床面積とは違う指標で豊かになっています。そのことが認められたおかげで、2つのコンペに入賞しました。「リモデルスタイル作品コンテスト2006『安らいで暮らす』部門」最優秀賞と「あいち木造住宅耐震改修事例コンペ」優秀賞を受賞し、積極的に小さく住もうとする提案がどちらの賞でも評価されたのです。

  「小さくすむ」ということは、余計な負担を減らすことであり、そこに可能性を感じています。

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