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VOL.3 : 成年後見制度とソーシャルワーク

総合福祉・心理臨床科学講座 助教授 岩間伸之

社会福祉の動向と「権利擁護」
近年、社会福祉の領域において「権利擁護」の重要性が強く指摘されるようになりました。その背景には、いくつかの要因が考えられます。

第1の要因には、重篤な「権利侵害事例」の増加があげられます。そのひとつは、認知症高齢者などのいわゆる「判断能力が不十分な人たち」が深刻な消費者被害にあっていることです。必要のない高額な商品を買わされたというような被害はよく耳にすることですし、最近の認知症の姉妹のリフォーム被害なども記憶に新しいところです。もうひとつは、深刻な高齢者虐待の事例が増えていることです。子ども虐待も大きな社会問題となっていますが、高齢者、とりわけ認知症高齢者への虐待の現実が明らかになってきました。その法的対応として、高齢者虐待防止法が2006年4月から施行されることになりました。

第2の要因は、社会福祉基礎構造改革によって社会福祉の仕組みが大きく転換されたことと深く関係しています。「措置から契約へ」と一般に言われるように、支援を要する人が自分に必要なサービスを自分自身で選ぶという時代がやってきました。社会福祉の理念からいってもとても大切なことですが、自分のことを自分で選べない人や選べる環境にない人をどのように支援するかが大きな課題として浮上してきました。つまり、「判断能力が不十分な人たち」の意志の尊重とその代弁によって権利をどのように擁護していくかが問われようになりました。

ソーシャルワークは、社会の動向にともなって時々刻々と変化する生活問題に敏感に反応することが求められます。この「権利擁護」をめぐる課題は、わが国の現代的課題といるものです。


ソーシャルワーク実践とアドボカシー(advocacy)
ソーシャルワーク実践と「権利擁護」は、密接に関係しています。「アドボカシー」は最近になって「権利擁護」と訳されることが多くなりましたが、ソーシャルワークにおいては、「代弁機能」として従来から基本的かつ重要な機能として位置づけられてきました。

今般の「権利擁護」をめぐる取り組みにおいては、ソーシャルワークが果たす役割はきわめて大きいはずです。しかしながら、ソーシャルワークがその重要な役割を果たすためには、ソーシャルワークの文脈のなかできっちりと「権利擁護活動」をとらえる必要があります。

そもそも「権利擁護」と何を擁護することなのでしょうか。ソーシャルワークにおいて大切な視点は、重篤な「権利侵害」への対応だけでなく、「本人らしい生活」の保障と「主体的変化」に向けた支援も含めてとらえておくことが重要です。つまり、ソーシャルワークが本来的に依拠する「価値」に基づいた権利擁護活動のあり方を検討することが求められるということです。

成年後見制度、高齢者虐待防止法、地域福祉権利擁護事業、苦情解決制度などの権利擁護のための制度や仕組みが整えられてきました。しかしながら、権利擁護のための制度が整うことと当事者一人ひとりの権利や生活、人生が守られることとは次元の異なるものであることを十分に認識しておくことが大切です。制度やシステムが整ったとしても、制度と本人との間に介在する「人」の存在がきわめて大きな意味をもつことになります。

図1では、ソーシャルワークにおけるアドボカシーを4層構造として図式化し、それに基づいて具体的なアドボカシー活動について整理しています。この図は、ソーシャルワークの機能のうち、アドボカシーに関係する部分を特化させて示したものです。

第1層の「援助関係の構築」と第2層の「当事者性の尊重による本人理解」を基礎部分として、ソーシャルワークのアドボカシーの活動が遂行されることを意味しています。また第3層では、具体的なケースアドボカシーの活動として、「システムとの対等関係の構築」を総体としての「アドボカシー機能」と規定したうえで、(1)意見表明、(2)代弁、(3)交渉、(4)対決、(5)その他、というの5つを具体的な活動内容として提示しています。さらに、
その活動を踏まえて、社会福祉制度の改革、社会資源の開発、福祉文化の創造に向けたコーズアドボカシーの活動としてこの5つの活動内容を位置づけています。

ソーシャルワークにおけるアドボカシー活動とは、あくまでもクライエントを出発点とする援助活動であり、クライエントが主体となる活動であるべきなのです。ソーシャルワークにおける権利擁護とは、重篤な人権侵害からの救済や個人財産の保全だけでなく、「本人の主体化」という大きなテーマを含んでいます。つまり、当事者である本人は第三者から守られる存在ではなく、自らの置かれた状況や社会関係を自らが変えていく主体的存在であり、自分に合った新しいシステムを自ら創り出す存在でなければなりません。ソーシャルワーカーは、専門職としてそのプロセスに全力を傾注する存在です。したがって、自分の権利が侵害された状態にあることに本人自身が気づくところから取り組みを始めることが重要となります。本人が「蚊帳の外」にいるという不在状態のなかでの権利擁護は、クライエント本人を問題解決の主体として位置づけることを第一義とするソーシャルワーク実践の価値とは相容れないものなのです。


図1:ソーシャルワークにおけるアドボカシーの4層構造
出典: 岩間伸之「ソーシャルワークにおける『アドボカシー』の再検討」山縣文治編
『《別冊発達25》社会福祉法の成立と21世紀の社会福祉』第25号,2001年,p.36.


成年後見制度の可能性
2000年4月、介護保険制度の導入と同時に民法の改正によって新しい成年後見制度がスタートしました。この成年後見制度は、社会福祉基礎構造改革という潮流のなかで、権利擁護のための新しい仕組みとして期待されています。

この制度は、判断能力が不十分な人たちが消費者被害にあったり、相続などの法律問題に巻き込まれて不利益を被らないようにするという面だけでなく、虐待などの重篤な権利侵害から本人を擁護したり、さらに本人の意志決定や自己決定の支援を含んだ生活全般にかかわる制度である点に大きな特徴があります。ここに、社会福祉実践やソーシャルワークが従来から持ち合わせてきたはずのアドボカシーの実践、そして自己決定を支えるという本質的な実践ができる可能性を強く感じています。

図2は、任意後見制度と法定後見制度をもつ成年後見制度の全体像として、その概略的な流れを図示したものです。また、表1では、法定後見制度の概要として、後見、保佐、補助の類型ごとにその内容を整理しています。

新しい成年後見制度は、その施行以来権利擁護のための制度として期待されてきましたが、十分に活用されてきたわけではありませんでした。その理由として、制度自体が簡単ではないことや手続きが煩瑣であること、後見人の担い手が不足していること、申し立てに際して費用がかかること等があげられます。しかしながら、高齢者虐待防止法の施行にともない、市町村長申し立ての活用も含めてこれからますます重要な制度となるものと思われます。したがって、成年後見制度を積極的に活用するための自治体ごとの仕組みづくりや地域ごとの取り組みが強く求められるようになっています。


図2:成年後見制度の全体像(概略)
出典: 独立行政法人福祉医療機構「チャレンジレポート:後見的支援事業(西成後見の会)」
『いきいきチャレンジ!−長寿・子育て・障害者基金情報−』第31号,2005年,p.9.


表1:法定後見制度の概要
  後見 保佐 補助
開始の要件 対象となる人 判断能力が欠けているのが通常の状態の人 判断能力が著しく不十分な人 判断能力が不十分な人
鑑定の要否 原則として必要 原則として診断書等で可
開始の申立 申立をすることができる人 本人、配偶者、四親等内の親族、検察官等
市町村長
本人の同意 不 要 必 要
機関の名称 本人 成年被後見人 被保佐人 被補助人
保護者 成年後見人 保佐人 補助人
監督人 成年後見監督人 保佐監督人 補助監督人
同意権・取消権 付与される範囲 日常生活に関する行為以外 民法12条1項に定める行為 民法12条1項に定める行為の一部に限り、申立の範囲内で家庭裁判所が定める特定の法律行為
本人の同意 不 要 必 要
代理権 付与される範囲 財産に関するすべての法律行為 申立の範囲内で家庭裁判所が定める特定の法律行為
本人の同意 不 要 必 要
責務 身上配慮義務 本人の心身の状態及び生活の状況に配慮する義務


NPO法人「西成後見の会」の取り組み−成年後見制度を活用した権利擁護活動−
「西成後見の会」(代表:岩間伸之)は、成年後見制度を活用した権利擁護の活動を、地域に根ざした形で取り組みたいという思いをもって、西成に関係する専門職の人たちが中心となって2002年6月に任意団体として発足しました。これまで、会員による後見人の受任、後見事例の支援内容の検討(写真1)、会員向けの勉強会、地域での後見セミナーの開催(写真2)など、自分たちでできる範囲の活動を少しずつ進めてきました。2005年5月には、特定非営利活動法人(NPO法人)として認証され、法人として責任ある活動も求められるようになりました。


写真1 事例研究会の様子

写真2 後見セミナーの様子

現在、社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士、精神保健福祉士、看護師、理学療法士、栄養士、自治体職員、大学教員、医師、弁護士といった専門職の人たち40名弱のメンバーで活動しています。

「西成後見の会」は、成年後見制度を活用した権利擁護の推進団体として、一人ひとりの後見事例を会としてサポートし、本人の自己決定を代弁しながら本人らしい生活を支えていくこと、そしてその活動を西成という地域に深く根ざした形で取り組んでいくことを目的としています。

そのために、これから取り組むべきことはたくさんありますが、当面2つのことを考えています。まずひとつは、会のメンバーが受任した事例への後見活動を大切に積み重ねながら、やがては「法人後見」を担えるように力をつけ、そのための体制を整備していくことです。そしてもうひとつは、後見人及びサポーター等の養成の取り組みです。後見活動の裾野を広げ、「市民後見」という視座から地域でさまざまな形で後見活動に携わっても
らえるような動きをつくりたいと考えています。

この「法人後見」と「市民後見」は、成年後見制度を活性化するための今後のキーワードとなると考えています。成年後見制度を含めた判断能力が不十分な人たちの「権利擁護システム」の構築は、今後の地域社会における大きな課題といえます。「西成後見の会」は、地域に密着したNPOとして、これからも西成の地域住民、専門職、行政機関、地域組織等のみなさんと一緒に歩んでいきたいと考えています。

(2006.4.1)

(主要参考文献)
岩間伸之「ソーシャルワークにおける『アドボカシー』の再検討」山縣文治編『《別冊発達25》社会福祉法の成立と21世紀の社会福祉』第25号,2001年,pp.34-41.
岩間伸之「権利擁護とソーシャルワーク実践の特質」秋山智久・井岡勉・岡本民夫・黒木保博・同志社大学社会福祉学会編『社会福祉の思想・理論と今日的課題』筒井書房,2004年,pp.30-39.
岩間伸之「ソーシャルワークの機能を問い直す−改革期にみるソーシャルワークの本質−」『ソーシャルワーク研究』第30巻第3号,相川書房,2004年,pp.10-16.
『成年後見制度の可能性〜大阪・西成からの発信〜(各年版)』(特定非営利活動法人西成後見の会西成後見の会活動報告書),2004-2006年.

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