トップページ研究だより一覧>研究だよりVol.02

生活科学最前線!研究だより 【研究だより一覧】へ

VOL.2 : こころとからだを育む食生活教育

食・健康科学講座助教授 春木 敏

新世紀にはいり、人々の健康づくりとQuality of Life(生活の質)向上を目標とする健康政策「健康日本21」がスタートし、5年経過した今も人々の生活行動に未だ改善の兆しをみないなか、全国民を対象とする食生活教育を体系化しようと食育基本法が本年6月に公布されました。これは、国民一人ひとりが生命を紡ぐ食の大切さに気づき、郷土の食文化や地域産業、食料供給、食の安全性などを包括的に学び、生涯にわたる望ましい食生活管理を体得し、豊かな食生活が育む健やかなこころとからだをもつ人間形成をめざそうとするものです。とりわけ、私たちの生活習慣は幼少年期に形成されることより、健やかな心身の発育発達をめざして地域保健では幼児とその保護者、学校保健では児童生徒を対象とする食生活教育が積極的に取り組まれています。2005年4月には栄養教諭制度も施行されるに至り、発育発達期にある子どもたちを対象とする食生活教育が学校健康教育の一環として進展していく時をむかえているといえるでしょう。


家庭において食品を選び、調理し、家族そろって食べるという日常の食生活は、食に関する知識やスキルを体得するよい学習の場となります。子どもたちの食生活教育は、園や学校での学習と家庭や地域での学習を有機的に結び、生活実践できるようにすすめることであり、生活科学の基本を踏まえていることを要求されます。このような社会環境のなかにあって、子どもたちが生涯を健康的に豊かに過ごすことのできる食習慣を築くよう、行動科学に基づく食生活教育プログラムを開発し、学校健康教育に普及しようとしています。では、その食生活教育プログラムを紹介しましょう。


ライフスキル(生きる力)の形成に基礎をおく食生活教育プログラム(JKYB)の紹介
朝食欠食や健康的でない間食行動を改善し、将来の生活習慣病を引き起こす食生活上のリスクファクターを軽減することを目標に、アメリカ健康財団が開発したKnow Your Bodyプログラム(KYB)を参考にした日本の子どもたちに適用する生活習慣病予防のための食生活教育プログラムです。 


このプログラムでは、生活習慣病のリスクファクターを軽減し、子どもたちが健やかに成長し、QOLの高い生活が送れることを目標にしてプログラムがめざす小学生段階での最終目標行動を設定しました。そして、KYBの理論的根拠の一つとなっている、Green,L.W.のプリシードモデルを参考としてプログラムのフレームを作成しました。これは、小学校4〜6年生を対象とする生活習慣病予防のための食生活教育プログラムの行動変容モデルです。先行因子では、栄養・食生活と健康との関係や各栄養素を多く含む食べ物、そして食べ物の選択や購入に影響する要因などに関する知識や態度などを身につけます。促進因子では、食品の広告や食品表示の分析スキルをはじめ、行動の計画段階で必要となる意志決定スキルや目標設定スキルなどのライフスキル形成を図ります。強化因子では、課外活動や指導者のためのワークショップを通じて、子どもたちの両親や教師などの行動や態度をよりよくし、子どもたちが学習した知識やスキルを日常生活に活用できるようにします。


JKYB食生活教育プログラムの行動変容モデル


次に、プログラムの授業構成を示します。まず、知識やスキルを習得し、健康的なおやつを確認し、朝食を食べる意義を明らかにすることによって、食事に対する好ましい態度の形成を図ります。また、広告の影響や食品表示を知り、望ましい食品選択の意志決定に活用することを学習します。これは、情報収集のために利用できる資源や機関について調べることと併せて消費者教育としても有効となります。そして、健康的なおやつを自分で用意し、健康的な朝食の計画を立てることができるようにライフスキルの適用と強化をめざします。授業方法としては、ブレインストーミングやロールプレイング、ケーススタディなどを取り入れた教材を用いて子どもたち主体の参加型学習をします。日常の食生活のなかで自ら問題点をみつけ、解決するトレーニングを繰り返すことで行動改善を図り、習慣化していきます。このような参加型学習によって子どもたちは、自分たちが持っている経験や知識をもとに、自らの力で解決法を見つけ、実際に課題を解決する経験を積むことができ、"やればできる"という自己有能感を高めていきます。また、共同作業の中でお互いの長所や能力を認め合うことによって自己尊重感を高め、相互作用が起こる過程において自他の意見を調整する機会をもち、対人関係能力(社会的スキル)を育てていきます。


JKYB食生活教育プログラムの授業構成


家庭・学校・地域をむすぶ食生活教育の実践
各校で授業実践が行われています。子どもたちが家庭において、健康的な食行動を体験し、練習する機会をもつことは、子どもの自己有能感と家族との絆をもたらし、食行動を含むさまざまな行動と関連するセルフエスティームの形成に有効であると考えられます。また、子どもの学習を介して保護者の食行動改善へと発展する可能性をもつことも授業実践から示唆されています。


セルフエスティームとプリシードモデル


子どもたちの学習風景より
目下、プログラムの有効性の評価研究をすすめています。子どもたちは、食と健康について『家庭科』や『総合的な学習の時間』に学習しています。子どもたちは、身近にある食品を教材に自分の間食・朝食行動を振り返る機会をもち、健康的な食生活について楽しく学びます。5年生は"おやつ"をテーマに計6時間学習しました。大好きなおやつも上手に選べば、楽しく、おいしく食べられることに大満足です。


小学校5年生を対象とする食生活教育風景
みんなで楽しく学んだよ!できたよ!健康的なおやつの食べ方!

子どもたちは、食と健康について『家庭科』や『総合的な学習の時間』に学習しています。今年の6月には食育基本法も公布され、「子どもたちが豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくために、何よりも食は大切である。」と、生涯にわたって健全なこころとからだを培い、豊かな人間性を育む基礎となる食育が推進されています。そんな折、5年生は"おやつ"をテーマに計6時間学習しました。


おやつの選択 〜おやつとあぶら〜

食の欧米化にともない、子どもたちはスナック菓子やチョコレートなどあぶらの多いおやつを好んで食べます。子どもたちは、あぶらの摂取過多が健康に及ぼす悪影響を学び、よく食べているおやつにはあぶらが多く含まれていることに気づきました。
そして、あぶらの少ない健康的なおやつを選ぶ目標をたてました。

なぜおやつを食べるのか

私たちはどんな時におやつを食べているのでしょうか?「お腹が空いた時」「きょうだいが食べている時」「イライラした時」などさまざまな時に食べています。子どもたちはいろいろなきっかけでおやつを食べていることに気づき、健康的なおやつの食べ方について目標を立てました。どれくらい実行できたでしょう?

広告のテクニック

「今なら20%増量中」や「期間限定発売」など食品の広告には、人を引きつけるためのテクニックがたくさんあります。
子どもたちが、広告の影響を受けて商品を購入していることに気づき、広告のテクニックに惑わされないようにおやつを選ぶ力を身につけることは消費者学習としても大切なことです。先生方の買い物失敗談などもあり、楽しく学習しました。おやつの買い物、しっかり!!

食品表示を読む

私たちは、豊かな食品に囲まれて暮らしています。食品表示には、栄養成分など適切な選択をするために役立つ情報が満載です。子どもたちはおやつの包装材を持ちより、役立つ食品・栄養情報をたくさん見つけ、食品表示を読んでおやつを選ぶ方法を学習しました。お子さんと買い物に行って、一緒に食品表示を確かめましょう。


紹介しました食生活教育プログラムに関心をお持ちの方は、yahooでJKYBを検索してください。指導者を対象とするワークショップを各地で開催しています。一度ご参加ください。学校健康教育分野でご活躍の方、特に、学校栄養職員さんには、是非参加していただきたいと思います。
 

【研究だより一覧】へ

back number