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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■04 有川 健太郎(アリカワ ケンタロウ)
・非線毛性接着因子(Afa)遺伝子を保有する分散接着性大腸菌の下痢原性に関する疫学的・細菌学的研究
 ―腸粘膜上皮細胞に対する炎症性サイトカイン産生誘導とその機構に着目して―
学位名: 博 士(学術) 論文審査委員: 主査 教授 西川 禎一
副査 教授 曽根 良昭
副査 教授 羽生 大記
副査 教授 堀口 安彦
  (大阪大学微生物病研究所)
取得年月日: 平成23年 3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 下痢原性大腸菌(Diarrheagenic Escherichia coli ; DEC)は,その病原因子や病原機序により腸管病原性大腸菌,腸管毒素原性大腸菌,腸管組織侵入性大腸菌,腸管出血性大腸菌,腸管凝集接着性大腸菌,分散接着性大腸菌(DAEC)の6種に分類されている.しかしながら,DAECの病因学的意義については,明確な結論は得られていない.申請者は,DAECには病原菌と非病原菌が混在するために結論が困難になっているとの仮説を立て,病原性DAEC株を不均一なDAEC群から明確に区別する指標を明らかにすべく本研究を実施した.
 第1章では,下痢患者から原因菌として分離された19株の非線毛性接着因子(Afa)保有DAEC株に着目し,その定着因子や培養細胞へのサイトカイン誘導性を調べている.その結果,DAECにはIL-8を誘導する株と誘導しない株があることを明らかにし,仮説を支持する結果を得ている.DAECが病原性株と非病原性株からなる不均一な菌群であることを示唆する新規性の高い知見を得ており,発表の翌年には国際誌の総説でも引用されており評価できる.
 第2章では,DAECの起炎性と運動性の相関を示したうえで,IL-8誘導における菌のべん毛の役割について検討している.その結果,IL-8を誘導するにはLIM培地で確認できる程の強い運動性を有する必要があることを明らかにした.次いで,IL-8誘導に関わる上皮細胞側の因子について検討し,自然免疫の分子機構として知られるToll-like receptor(TLR)の一つであるTLR5がべん毛を認識しIL-8を誘導していることを証明した.しかしながら,TLR5は腸上皮細胞の基底側に局在する.申請者は,上皮細胞の頂部側に付着するDAECのべん毛タンパクがどのように基底側に発現するTLR5と応答するか調べ,DAECが上皮細胞相互の結合を弛緩させ,べん毛タンパクが基底膜側に移動しやすくなっていると推察している.これはAfaと運動性に続くDAEC第3の病原因子解明につながる重要な提案である.
 第3章は,これまでに得た知見が下痢原性DAEC株を識別する指標たりうるか否か疫学的に検証しようとするものであり,健康者から分離した17株のAfa陽性DAEC株について下痢症患者由来DAEC株との比較を行なっている.その多く(15/17, 88%)がLIM培地を用いた運動性試験で陽性であったが,下痢症由来DAEC株と同程度のIL-8を誘導したのは2株だけであった(2/15, 13%).下痢症由来DAEC株の運動性とIL-8誘導性が完全に相関していたのと比較すると,健康者由来の運動性DAEC株はIL-8誘導性が明らかに低く,IL-8誘導性をもって下痢原性の指標にしようとする申請者の仮説を疫学的に支持するものとなっている.
 以上,DAECの病原性は株により異なり,下痢症を起こす菌株を識別するには上皮細胞への分散接着とともに,べん毛タンパクによるTLR5の活性化を介した炎症反応の誘導を確認する必要があることを示した.食品衛生の現場において見過ごされてきたDAECだが,本研究結果はAfa遺伝子の保有と運動性を調べる簡便な一次スクリーニング検査で下痢原性株を絞り込めることを示しており,食の安全確保に有用な知見を提供している.その研究内容と質に鑑みて,本審査委員会は本論文が博士(学術)の学位に値するものと認定した.


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