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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■13 丁 英姫(ジョン ヨンヒ)
・Molecular cloning and physiological characterization of mammalian low-density lipoprotein receptor-related protein 10 and cellular retinoic acid binding protein genes
哺乳動物の低密度リポ蛋白質受容体ファミリーLRP10遺伝子と細胞内レチノイン酸結合蛋白質CRABP遺伝子のクローニングと機能解析
学位名: 博 士(学術) 論文審査委員: 主査 教授 西川 禎一
副査 教授 曽根 良昭
副査 教授 羽生 大記
副査 准教授 佐伯 茂
取得年月日: 平成22年 3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 申請者は,生活習慣病の発症機構を分子レベルで明らかにすることを目的に,脂質代謝異常症や糖尿病の発症に関与する低密度リポ蛋白質(LDL)受容体ファミリー遺伝子と,脂肪細胞の分化に関与する細胞内レチノイン酸結合蛋白質遺伝子(CRABP)に着目し、その構造と機能について検討している。
 第1章では、生活習慣病の発症に果たすLDL受容体ファミリーと細胞内レチノイン酸結合蛋白質の生理学的重要性について文献的に考察している。
 第2章では、LDL受容体ファミリーに属す新規の遺伝子を発見しLRP10と命名し,その構造と発現組織について検討している。ヒトLRP10 cDNAは全長5,715塩基からなり、1,905個のアミノ酸をコードし、その分子量が210kDaであること、ゲノムLRP10が染色体11番目に存在し、38個のエキソンから構成され、LDL受容体に特徴的な5つの機能ドメインを有することを明らかにしている。さらに、LRP10は大脳皮質、海馬、脈絡叢、顆粒層で発現量が高く、出産直後から発現量が増加すること、大脳皮質では神経前駆細胞が存在する脳室帯に存在することを示している。これらの研究結果は、LRP10が脳神経系の発達と遊走に関与していることを示唆した点で評価できる。
 第3章では、糖代謝や骨代謝を制御するWntシグナル伝達経路に対するLRP10の作用を検討し、LRP10がWnt/β-cateninシグナル伝達経路の下流に位置するT細胞因子(TCF)の転写活性を阻害することを見出し,LRP10遺伝子のリガンド結合ドメインとEGF前駆体相同ドメインの構造がTCF転写活性の制御に重要であることを証明している。LRP10はGSK3βによるβ-cateninのリン酸化やユビキチン化を阻害せず,またβ-cateninの核内への移行も阻害しないことを申請者は明らかにし,LRP10は核内でのβ-cateninとTCFの複合体形成を阻害する,あるいはTCFと標的遺伝子の結合を阻害することによってTCF転写活性を抑制することを示唆している。これらの研究結果は、LRP10が、Wnt/β-cateninシグナル伝達経路を介する糖代謝、骨代謝の制御機構に関与することを明らかにした点で評価できる。
 第4章では、細胞内レチノイン酸結合蛋白質CRABP遺伝子の構造、発現、機能について検討している。その結果、CRABPにはCRABP-IとCRABP-IIがあり、CRABP-IとCRABP-IIは各々全長411塩基、414塩基から構成され、その cDNAは各々137個、138個のアミノ酸をコードし、ヒト、マウス、ラットの間で高い相同性を示すことを明らかにした。CRABP-Iは脂肪組織に、CRABP-IIは骨格筋、大腸に高発現することを見出した。ビタミンAの活性型代謝産物であるレチノイン酸は、脂肪細胞のCRABP-Iの発現を亢進させたが、脂肪細胞CRABP-IIの発現を抑制したことより,CRABP-IとCRABP-IIは、レチノイン酸の核内への移行を正と負に制御することで、レチノイン酸の作用発現を制御している可能性を示唆する知見を得ることに成功している。これらの研究結果は、レチノイン酸による脂肪細胞の分化誘導機構を明らかにした点で評価できる。
 以上より、本論文は、申請者が自ら発見した低密度リポ蛋白質受容体ファミリーLRP10が脳神経系の制御に関与すると共に、糖質代謝、骨代謝を制御することによって生活習慣病の発症に関与すること、細胞内レチノイン酸結合蛋白質CRABP-IとCRABP-IIがレチノイン酸による脂肪細胞の分化を制御することによって生活習慣病の発症に関与することを明らかにした。本論文で得られた研究結果は、生活習慣病の発症を栄養学的に抑制するための重要な基礎的知見を提供していると評価できる。
 よって、審査委員会は本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと判断した。


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