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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■11 志垣 智子(シガキ トモコ)
・救急活動記録に基づく日常・非日常被害の発生特性に関する研究
 −大阪・神戸地区を事例として−
(A Characteristics of Daily to Non-daily Disease and Casualty Based on Emergency Ambulance Service Records -Case Study in Osaka and Kobe Districts -)
学位名: 博 士(学術) 論文審査委員: 主査 教授 宮野 道雄
副査 教授 森  一彦
副査 教授 藤田 忍
取得年月日: 平成22年 3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 従来から一部の研究者の間では、住宅内事故を含む日常災害の実態を分析するための重要な資料の一つとして、救急活動記録が用いられてきた。これは、救急活動記録データが個人属性や地域、建物など事故や疾病の発生場所や内容に関わる記録等、詳細な情報を含んでいることによる。一方、非日常災害である地震時の人的被害は、地震の規模(マグニチュード)や震度あるいは震源からの距離の他、直接的には建物被害に関わるものとして検討、分析が行われてきた。その理由は、従来の地震時人的被害は、いわゆる直接被害が主であったためであるが、とくに兵庫県南部地震以降の地震では、地震後の避難生活などで発生する間接被害である関連死が問題となってきた。
 このような背景から、本論文では地震の発生前から、発災、そしてその後という日常から非日常を経て日常へ戻るまでの時系列で人々の健康や生活に与えた影響を連続的に評価するための資料として、救急活動記録の有効性を検討した。同様の視点で行われた先行研究はなく、また膨大な救急活動記録データの分析に基づく非常に貴重な研究といえる。
 論文は序論(2章)、本論(2章)、結論(1章)から構成され、5章から成る。
 序論第1章の緒言では、研究の背景と目的について述べ、同時に関連既往研究の概要について整理することによって本研究の意義付けを行った。第2章では、研究の主要な原資料となった救急活動記録に記載される各種の指標について、それらの定義に基づき吟味した上で、さらに災害時の人的被害発生危険度評価を目的とした場合の地域特性指標の選別を町丁目、小・中学校区、区単位という地域単位ごとに行った。主成分分析を用いて検討した結果、地域の特性を表わすのに最も適した8指標を抽出し、最適単位は小学校区であることを見出した。
 本論の第3章では日常から非日常における人的被害発生危険度評価への救急活動記録の適用性を明らかにするために、まず居住環境の特性を表わす年齢、人口などの人的データおよび建築年代、構造などの建物データと救急出動記録による外因性中等症以上の事故発生率との相関分析を行った。結果として、日常時の人的被害発生危険度評価において救急活動記録が有用であることが示された。さらに、兵庫県南部地震発生の平成7年1月をはさむ平成6年、7年、8年の大阪市における日別の救急活動記録の分析から地震の影響の消長が明らかとなり、同記録の非日常時への適用の有効性を実証的に示した。第4章では、兵庫県南部地震発生の1月17日を起点とした外科系および内科系の疾病動向を明らかにした。また、地震発生以前からの救急活動記録が得られた大阪市を事例として、正規分布関数を用いたトレンド分析によって発災の前後1ヶ月における傷病種別による搬送件数の推移を詳細に明らかにした。これらの結果により、開放性および非開放性損傷のような外科系疾患は発災に直接的に反応して急増するのに対し、呼吸器系、消化器系、循環器系は時間差をおいて漸増する傾向が明瞭に示された。
 最終章の結論における第5章では、本研究で得られた結果をまとめて結言としている。
 以上のように、本論文では地震による直接被害から間接被害に及ぶような、やや長期間にわたる人的被害予測を含み、日常から非日常へ至る人的被害を救急活動記録を用いて評価する手法を開発した。また、評価単位として小学校区が最適であることを見出したことは、従来の地域防災における地域単位との整合性もあり、極めて有用である。よって、審査委員会は本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと認めた。


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