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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■08 呂 思強(ロ シキョウ)
・中国の熱負荷計算用標準年気象データとその応用に関する研究
学位名: 博 士(学術) 論文審査委員: 主査 教授 永村 一雄
副査 教授 井川 憲男
副査 教授 多治見 左近
取得年月日: 平成22年 3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 成長が著しい中国にあって、これまでどちらかといえば、エネルギー消費量の増大は成長の証であった。建設の場合も同様で、エネルギー負荷の大きい建物を、大規模な空調設備でまかなう力づくの設計がまかり通っていた。しかしながら、中国も国際協調としてCO2削減に取り組む姿勢を示し、国全体で温暖化ガスの排出抑制に向けた施策を掲げ始めている。
 本論文は、まさにこの動きに応えようとするもので、今後、エネルギー消費量の急増が予想される民生・家庭部門の大半を占める建物からの運用時CO2排出量の抑制を大きな目的とし、エネルギー消費量に直結する空調用熱負荷予測に不可欠な中国の標準年気象データについて詳細な分析がなされている。
 第1章では、既往の文献から世界のエネルギー事情と中国国内での消費エネルギーの予測を論じ、建物で消費するエネルギーの割合が高いこと、しかもその大半が運用時であることを指摘し、建物の計画・設計段階でいかに省エネルギー性能を付与できるか、そしてそれをいかに確認するかが重要であるとして、次章に述べる方法論の道筋を述べている。
 これを受けて第2章では、建物のエネルギー消費の多くを占める空調熱負荷の推定に不可欠な標準年気象データの特性を詳説し、現時点で中国を対象とした気象データのうち、公的に入手できるすべてのデータについて、その生成方法を詳細に分析した後、各種統計量の比較分析を厳密に行っている。これは、どのデータを計画時に用いるかによって省エネルギー性能の評価が異なってくるからであり、分析の結果、データ間で特定地域の積算日射量に300MJ/m2もの大きな相違が存在していることを見出している。
 さらに第3章では、検証用の標準建物を用い、実際に熱負荷を計算し、前章と同じくデータ間に約1割の差異が生じることを指摘している。また、特性の分析結果から標準年として適切な統計量を内在するデータ候補がIWECであることを突き止めている。
 第4章からは先の標準年気象データの応用を扱っており、実際の建物消費量調査と気象データから得られるデグリデーとの関連性を確認した後、既存建物の省エネ改修をシミュレーションで検証し、これを計画段階で実践できるよう、中国全土に適用できる暖冷房負荷分布も提示している。これによれば、事前に大まかな負荷傾向が予測でき、建物でのエネルギー消費量の目安が得られる。
 第5章では、これまで汎用されていた中国国内の気候図に代わり、気温だけでなく、主要気象3要素を主成分分析して得られた合成変量を指標に用いた、あらたな気候区分を提案している。この区分によれば、従来の暖房期を中心においた区分以外に、冷房期の建物熱負荷削減にも活用できる区分となっていること、ならびに夏期の熱負荷特性分布が、緯度ではなく南西軸の変化として現れることを見出しており、地勢学的にも興味深い結果となっている。
 第6章では、これまで中国で取り上げられる機会の少なかった自然エネルギー利用のためのエネルギーポテンシャルマップを作成している。先進国では再生エネルギーとして活発に利用を検討されているが、中国では建物熱負荷のためのそうしたマップそのものが必ずしも流布してしない。本章で提示されたものは、パッシブソーラー、夜間換気、蒸発冷却、夜間放射といった利用の容易なポテンシャルをすべて網羅しており、中国での自然エネルギー活用にあたり、どの地域で何を活用すべきか、指針として利用できるものとなっている。
 第7章は、これまでの章を総括し、建物のエネルギー消費を抑制するための中国での標準年気象データの応用方法をまとめている。膨大な気象データを駆使し、今後のエネルギー消費の増大に歯止めをかける具体的な手段と詳細な指標を提示しており、地球にやさしい居住環境の構築に大きく寄与することになろう。
 よって、本審査委員会は本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと認めた。


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