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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■03 樽井 康彦(タルイ ヤスヒコ)
・知的障害者ケアにおける脱施設化志向の現状と課題に関する研究
 ―知的障害者施設の職員と施設長の意識に焦点をあてて―
学位名: 博 士( 学 術 ) 論文審査委員: 主査 教授 白澤 政和
副査 教授 堀 智晴
副査 教授 要田 洋江
取得年月日: 平成21年 9月 30日

 
・論文審査の結果の要旨
 本論文は、知的障害者施設の職員と施設長による脱施設化に関する意識をもとに、我が国で脱施設化を推進する上での課題を明らかにすることを目的とし、知的障害者の脱施設化に関する文献レビューを行い、論点の整理を行い、「施設か地域か」という二項対立的な議論では現状の問題とその解決策を十分に説明できないことを示した。

 本研究は、知的障害者施設200箇所を無作為抽出し、1施設につき施設長及びそれ以外の職員各1名の合計400名を対象にする調査分析を主としている。施設内の援助内容として「医療・行動面の援助」「重度者の外出促進の援助」「心理・社会的援助」の3クラスター解を採用し、「心理・社会的援助」のクラスターを構成する項目群では脱施設化志向得点が高く、「医療・行動面の援助」のクラスターでは低い値を示したことから、施設内での援助内容により脱施設化志向の強さが異なることを明らかにした。

 また、施設関係者の脱施設化志向は「自立性・個別性重視の援助」「医療・行動面の援助」「地域社会との関係調整の援助」「重度者の外出促進の援助」の4因子からなる構造であり、障害程度によって地域移行の対象者を限定しない「障害程度非選別志向」が4つの因子すべてにおいて有意に関連することを示した。ここから、地域生活へ移行する対象者を障害程度で限定せず、すべての人の権利として地域移行をとらえる考え方が脱施設化志向を積極的に進める重要な規定要因であることを明らかにした。さらに、「グループホーム実践経験」は「自立性・個別性重視の援助」、「医療・行動面の援助」、「重度者の外出促進の援助」において有意に関連しており、グループホーム実践の経験が脱施設化志向を強化していくことができることを明らかにした。

 脱施設化志向の総論的評価意識の違いを施設長群と職員群で比較したが、脱施設化志向各因子の平均得点は、全般的に職員群の方が施設長群よりも有意に高い結果を示している。また両群におけるパス構造図の比較を行ったが、両群共に知的障害者の自立性・個別性を尊重した制限の少ない環境志向が、脱施設化施策に積極的評価に影響しており、医療的ケアの確保や地域社会との関係調整に関しては、施設長群で脱施設化に慎重な意識がみられた。入所施設における諸問題とその改革の必要性は両群に共通して認識されながらも、脱施設化志向は、職員は既存の枠組みにとらわれない変革への意識が強く、施設長は利用者の医療ニーズに対する地域ケア体制への不安や地域社会との関係調整の困難さから、脱施設化に対して慎重な意識が強いことを明示した。

 さらに、3名の施設職員の脱施設化に関する困難や価値葛藤に関するインタビューデータを半構造化面接法によるインタビューを行い、分析しているが、施設職員は、入所施設の保護的機能と利用者の自律性や自己決定の機会、施設の限界と地域社会の側での変容の必要性、利用者の保護と自立等により、脱施設化に対する葛藤状況にあることを示した。
 以上、脱施設化を推進していく上で示唆に富む知見を多く提示しており、審査委員会は、本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと認めた。


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