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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■07 戸嶋 ひろ野(トシマ ヒロノ)
・腸管出血性大腸菌O157に対するコリシン産生性腸内細菌の影響に関する疫学的・細菌学的研究
学位名: 博 士( 生活科学 ) 論文審査委員: 主査 教授 西川 禎一
副査 教授 曽根 良昭
副査 教授 羽生 大記
取得年月日: 平成21年 3月 24日

 
・論文審査の結果の要旨
 申請者は,O157に感染しても発病せずに健康保菌者となる例が多数あること,特に壮年期においては小児や高齢者に比べて発病率が低い点に着目し,その機構を明らかにできればO157感染症の予防や食品衛生の改善に役立てることができるものと期待し,本研究の目標とした.

 第1章では,抑制菌保有率が年齢とともに上昇し,壮年期には小児に比べて有意に保有率が高いこと,健康保菌者ではさらに保有率が高くなること,その一方で患者が抑制菌を保有していないことを明らかにし,O157感染時の発病予防に抑制菌が寄与していることを示唆した.病原菌に対するバクテリオシン産生菌の効果を実験的に探ろうとした報告は過去に少数あるが,人を対象に調査を実施し疫学的に検討しようとした例はなく,独創的な着想として評価できるものである.O157に対する抵抗性と抑制菌の間の因果性を結論するにはさらなる研究が要求されるが,大学院課程の限られた時間の中で疫学的な検証を合理的に実施しており優れた研究と判断できる.

 第2章では抑制菌が産生するコリシンの分類を試みたが,分離株が多くしかも複数のコリシンを産生する菌株もあるために完全には同定し得ていない.しかしながら,野外で分離した抑制菌の産生コリシンを同定するには遺伝子組み換えなどを用いた極めて基礎細菌学的な実験を行う必要があることから,申請者は実用のための最低限の情報をまず確保することを優先したものと理解できる.

 以上,第1章および第2章の疫学的研究をまとめた副論文は,ケンブリッジ大学が1901年に創刊した歴史ある専門誌「Epidemiology and Infection;疫学と感染」に原著として掲載され,2008年のNature Chemical Biology 4(8):466-473のレビューで早々と引用されており,その知見の重要性が評価された証左と判断できる.

 第3章ではコリシンがO157の病原因子に与える影響をin vitro実験において検討した.志賀毒素は非常に毒性が強く,O157の重要な病原因子として知られている.抑制菌が発病抑制に寄与することが第1章で示されたことから,申請者はコリシン存在下においてO157を培養し,その毒素産生がコリシンにより抑制されることを期待して測定したが,予期に反してDNase型コリシン添加群ではむしろ毒素産生が増加し,当初の仮説とは相反するものになった.しかしながら,抑制菌の実用化に向けて考慮すべき点を明らかにするとともに,抑制菌がO157の毒素産生ではなく腸管付着性を制御して発病を阻止している可能性を論じるなど優れた考察力を示している.本章に関する副論文は,米国微生物学会が出版する「Applied and Environmental Microbiology」に原著として掲載され,出版から1年未満で米国微生物学会の専門誌等に既に3度引用されていることも,本研究の科学的価値が認められた結果と判断できる.

 以上,本論文はO157に対する生体防御機構の一つとしてコリシン産生菌の意義を検討し,@抑制菌がO157感染症の発病阻止に寄与している可能性を世界で初めて示した.AグループAコリシンの重要性を示すデータを得た.BDNA分解酵素型のコリシンを産生する抑制菌とそのコリシンがO157の毒素産生を亢進しうることを世界で初めて発見し,病原性に与える影響を十分に検討することなく人為的に安易に利用することのリスクを示し,生活科学の重要な部門である食の安全に寄与する知見を得た.

 以上の研究内容とその質に鑑みて,本審査委員会は本論文が博士(生活科学)の学位に値するものと認定した.


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