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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■02 高井 逸史(タカイ イツシ)
・要介護高齢者における日常生活事故予防支援のあり方に関する研究
 (A Study on Support of Daily Accident Prevention for Frail Elderly)
学位名: 博 士( 学 術 ) 論文審査委員: 主査 教授 宮野 道雄
副査 教授 森 一彦
副査 教授 岡田 明
取得年月日: 平成21年 3月 24日

 
・論文審査の結果の要旨
 人口動態統計によれば、わが国では毎年1万人を超える人々が家庭内での事故により死亡している。この内、不慮の窒息が最も多く、転倒・転落および溺水事故は経年的に増加傾向にある。また。厚生労働省の資料では室内での転倒事故を含む一般的な負傷で救急搬送された人は増加傾向を示している。これらの事故における死傷者の大部分は高齢者であり、とくに後期高齢者の死亡率が高い。

 このような背景に基づき、本論文では理学療法士としてリハビリ業務に従事してきた立場から医療現場で抱いた問題意識によって、要介護高齢者の代表的な日常生活事故予防支援のあり方について検討し、有効な手法を提起した。

 論文は序論、本論、結論から構成され、本論は3章からなる。

 序論では介護保険制度下における要介護者の実態把握や日常生活事故の特性を整理した結果、比較的軽度の要介護高齢者は転倒事故により骨折する危険性が高く、相対的に介護度の重い要介護高齢者では仮性球麻痺などに伴う誤嚥事故による肺炎を引き起こすケースが多いことなどを明らかにした。

 本論の第1章では、序論で整理した事故実態に基づき研究対象者を定義し、その上で転倒事故および誤嚥事故ともに環境適応能の観点から対策を考える必要性について論じた。

 第2章では、軽度要介護高齢者の転倒問題を対象とし、実態把握のために住宅改修の調査を実施して改修箇所の多くは手摺りの設置であることを明らかにした。さらに、対象者を歩行能力により3群に分けて検討した結果、歩行能力が最も低い群においては手摺りの有無により姿勢制御が有意に影響を受け、姿勢制御はこれまでに考えられてきた自動的な姿勢反射メカニズムによるものだけではないことを明らかにした。さらに、転倒予防を目的として考案したバランスボードを用いた実験によってバランス能力に及ぼす影響を検討した。その結果、介入期においてバランス能力の改善がみられ、持続的な効果も期待できたことから、認知機能に働きかける介入が環境適応能を向上させ、転倒予防支援につながるとの結論を得た。

 第3章では、慢性期脳卒中患者を対象に嚥下機能に影響を及ぼす関連要因を明らかにするための検討を行った。その結果、口腔内の乾燥状態、下顎のアライメントといった生理学的・構築学的要因のほか、感覚・知覚機能、さらには認知機能についても嚥下障害の要因であることを明らかにした。これらの結果から口腔内の知覚・認知機能に介入することが、嚥下機能の向上に寄与すると考え、慢性期脳卒中患者に対し知覚弁別課題を実施し、嚥下機能の改善を実証した。また、リハビリ場面における認知的アプローチの取り組みが摂食嚥下機能の向上に寄与することをも明らかにした。

 結論では本研究で得られた結果をまとめ、今後の展望について述べている。

 以上のように、本論文で得られた成果は、理学療法士の立場から医療・介護現場において見出した問題意識に基づいて、高齢者の日常生活事故予防支援策を実証的に明らかにした、社会的に重要かつ有益な知見である。したがって、審査委員会は本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと認めた。


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