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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■01 久村 文恵(ヒサムラ フミエ)
・免疫抑制剤によって誘導される腎細胞傷害に対する緑茶抽出物の保護効果とそのメカニズム
学位名: 博 士( 学 術 ) 論文審査委員: 主査 教授 湯浅 勲
副査 教授 西川 禎一
副査 教授 羽生 大記
取得年月日: 平成20年 6月 30日

 
・論文審査の結果の要旨
 腎臓は、血液を濾過することによって老廃物の排泄や生体内の内部環境の恒常性を保つことにより健康を維持している極めて重要な臓器である。何らかの病因で腎機能が完全に果たせなくなり生命の維持が困難となった病態が末期腎不全である。末期腎不全の治療法として、透析療法と腎臓移植の2種類がある。腎臓移植は健常者と同様の生活ができるため、理想的な治療法である。しかし、腎臓移植には、拒絶反応が起こりやすく、免疫抑制剤を生涯継続して服用しなければならない。さらに免疫抑制剤の継続的服用はしばしば副作用としての腎毒性をもたらし、これを予防することは移植患者にとって大きな問題となっている。患者にとって、免疫抑制剤を服用しなければならないが腎毒性を起こさないためには服用量を減らさなければならないジレンマが生じる。この課題を解決すべき効果的な予防法はいまだ確立されていない。

 近年、生体内で発生する活性酸素が、急性および慢性疾患あるいは老化に関係することを示唆する多くの報告がある。一方、活性酸素によって引き起こされるこれらの疾患や老化を予防するために抗酸化物質の利用が検討されている。日常われわれが摂取する食品の中にも強い抗酸化能を有するものがある。そこで、日常的に摂取している食品成分が腎毒性の予防および病態改善に有効であれば患者のQOLの向上に寄与することができると考え、本研究では強い抗酸化能を有し、また日常的によく飲用されている緑茶の利用の可能性について検討した。緑茶に含まれる成分には多くの生理機能を有することが知られており、なかでも、茶ポリフェノールは優れた抗酸化作用を有する。しかしながら、免疫抑制剤の副作用である腎毒性に対する緑茶抽出物および茶ポリフェノールの効果に関する報告はない。そこで本研究では免疫抑制剤による副作用としての腎細胞傷害に対する緑茶抽出物の保護効果とそのメカニズムについて検討した。

 まず第1章では、免疫抑制剤 (FK506) によって誘導される腎細胞傷害に対する緑茶抽出物の保護効果について検討した。免疫抑制剤として治療に広く使われているFK506は細菌(Streptomyces tsukubaensis) による生産物であり、FK506による副作用としての最も傷害を受けやすい部位は、腎臓の近位尿細管細胞である。そこで本研究では腎尿細管傷害の研究によく使用されているブタ近位尿細管上皮細胞 (LLC-PK1) を使用し、FK506による腎細胞傷害メカニズムおよび緑茶抽出物あるいは茶ポリフェノール類の腎細胞傷害に対する保護効果について調べた。その結果、FK506は、近位尿細管上皮細胞の生存率を有意に低下させること、またその細胞死はアポトーシスであることを見出した。一方、FK506によって誘導されるアポトーシスは、緑茶抽出物によって有意に抑制されること、さらに、緑茶の構成成分である茶ポリフェノールのうちエピガロカテキンガレート(EGCG)とエピガロカテキン(EGC)は、最も強い抑制効果を示すことを明らかにした。

 第1章の結果から、緑茶抽出物による細胞傷害抑制効果は、緑茶抽出物に含まれる茶ポリフェノール含量から予測される以上の効果を有することが示唆されたことから、第2章では、FK506が誘導する腎細胞傷害に対する茶ポリフェノールの相乗効果について検討した。その結果、FK506によって誘導される近位尿細管上皮細胞の細胞死を抑制する効果は、茶ポリフェノールのうちEGCGとEGCにおいて、単独添加よりも組み合わせることによって相乗的に効果を示すことが明らかとなった。さらに、近位尿細管上皮細胞の細胞死を抑制する効果の相乗的な作用メカニズムとして、活性酸素種(ROS)の関与について検討したところ、EGCGあるいはEGCと他のポリフェノールを組み合わせると、相乗的にROS産生が抑制されることが明らかとなった。さらに、アポトーシス細胞死の経路に関与するシトクロムCの遊離およびカスパーゼ−3活性におよぼす茶ポリフェノールの影響について検討したところ、細胞内ROS量の場合と同様に、EGCGあるいはEGCと他のポリフェノールを組み合わせることによって、シトクロムCの遊離およびカスパーゼ−3活性は相乗的に減少することが明らかとなった。

 本研究において、緑茶抽出物および茶ポリフェノールは、免疫抑制剤 (FK506) による副作用としての腎細胞傷害を顕著に抑制することが明らかとなった。また茶ポリフェノールにおいては単独の成分による作用よりも、複数の成分による相乗的な効果によって腎細胞傷害を抑制することを見出した。
 これらのことから、日常的に飲用されている緑茶は、移植患者などにみられる免疫抑制剤服用によって生じる腎毒性などの副作用を軽減させるのに有効な食品であることが示唆された。


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