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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■02 廣瀬 美千代(ヒロセ ミチヨ)
・家族介護者の「認知的介護評価」の肯定・否定両側面に関する研究
学位名: 博 士( 学 術 ) 論文審査委員: 主査 教授 白澤 政和
副査 教授 山縣 文治
副査 教授 畠中 宗一
取得年月日: 平成20年3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 多くの介護者には介護負担感と同時に、介護を前向きに肯定的にとらえる感情があるとされ、本学位申請論文では、家族介護者の介護に対する評価を肯定・否定の両側面で捉え、それを測定する尺度を開発し、その尺度を用いて、両方の評価間での関係、否定的および肯定的な感情評価に関連する各要因を明らかにした。さらに、介護者タイプに分けて、その特徴を整理し、今まで十分に解明されてこなかった否定・肯定の両介護感情の全体像を明らかにしたことが評価できる。具体的に、本学委審査論文として評価すべき点は、以下の5点である。

 (1)介護者の否定的・肯定的な精神的側面を測定する尺度に関する先行研究をリビューし、「認知的介護評価」尺度の開発を行ったことである。その結果として、否定的評価は「社会活動制限感」「介護継続不安感」「関係性における精神的負担感」の3下位尺度、肯定的評価は「介護役割充足感」「高齢者への親近感」「自己成長感」の3下位尺度で構成され、2つの領域がバランスよく構成された尺度を開発でき、否定的評価についての研究に偏りがちであった介護が肯定的な側面をもったものとして実証できたことの意義は大きい。

 (2)「認知的介護評価」の否定的評価に関連する要因を示したことである。具体的な結果は、否定的評価には要介護高齢者本人のADLや行動障害、介護者の主観的健康度やインフォーマルサポートに対する満足度などのストレッサーや資源要因が関連していること、また、否定的評価と要介護高齢者のADLとの関係は線形の関係ではなく、ADLが中レベルの時に否定的評価がピークに達することを明らかにした。

 (3)「認知的介護評価」の肯定的評価に関連する要因を明らかにしたことである。肯定的評価には要介護高齢者の行動障害のほか、介護者の年齢、性別、夜間介護が関連することが明らかにした。介護年数が長く、年齢の高い女性介護者に肯定的評価が高いことから、夜間の介護やインフォーマルサポートを通じて、介護に対する肯定的評価が生じてくる介護過程の可能性を示唆した点が特に評価できる。

 (4)介護者の肯定的評価が否定的評価に与える緩衝効果を示したことである。介護者の主観的健康度、社会的活動、肯定的評価が否定的評価に対して軽減効果を示し、介護者の意識的な要因である「介護役割充足感」や「自己成長感」は、否定的評価を軽減する効果はさほど大きくないが、介護者の流動性のある感情である「高齢者への親近感」は否定的評価を軽減する効果が高いことを実証した。

 (5)さらに本論文では、「認知的介護評価」で、パラドキシカルな関係にある高否高肯タイプ(肯定・否定的評価の両方が高いタイプ)と低否低肯タイプ(両評価が低いタイプ)を抽出し、それぞれの関連要因や対処スタイルについて明らかにしたことである。 高否高肯タイプと低否低肯タイプは正負の関係が概ね均等であり、高否高肯タイプは、夜間介護を行う必要があり、介護者の年齢が高く、要介護高齢者の自立度が低く、介護に対して積極的受容型の対処をとる特徴が明らかにした。他方、低否低肯タイプは夜間介護を行う必要がなく、介護に対してペース配分型の対処を行うが、積極的受容型の対処はほとんど行わず、介護者の健康度や趣味・サークルなどの資源充足度がやや高く、公的サービスを利用する傾向にあるという特徴が明らかした。以上の結果、介護役割に対するコミットメントにより意義を見出すことは大切であるが、介護に拘束されすぎないよう、自分自身のペースを保って介護を継続していくことで、介護に対する肯定的評価を保ちながら否定的評価を軽減していくことが肝要であることを提示することができた。

 以上をもとに、専門職の介護者支援として、肯定・否定両評価のバランスを考慮した支援をしていくうえで、介護者を介護に拘束する方向に作用しないよう、また介護者自らの生き方の中に介護を肯定的に意識付けることができる視点での支援の必要性を示した。

 本論文の着眼点は、介護者の負担感軽減を目的として行われてきた否定的側面に視点を当てた支援だけでは限界があるとの認識から、介護の肯定的側面にも着目した本論文の研究成果の意義は大きい。とりわけ、両方の感情がおおむね独立しており、かつ両評価の特性やその関連性を明らかにしたことが評価される。また、本研究から示唆された介護過程が肯定的感情に関係していることから、本研究の縦断的研究のもつ限界が明らかになり、横断的研究の必要性が新たな課題として提起された意義も大きい。
 よって、本論文は博士(学術)の学位に値するものであると認定した。


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