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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■03 津村 有紀(ツムラ ユキ)
・Comparative study of dietary life and seasonal variation in gastrointestinal activity between the elderly and the young
(消化管活動の季節変動並びに食生活についての高齢者と若年者の比較研究)
学位名: 学術 論文審査委員: 主査 教授 曽根 良昭
副査 教授 西川 禎一
副査 教授 羽生 大記
取得年月日: 平成19年3月23日

 
・論文審査の結果の要旨
 本論文はわが国の急速な高齢化を背景として、高齢者に顕著で且つ高齢者の食・栄養管理において注意すべき栄養状態の二極化の要因である加齢に伴う“食物摂取状況の変化”と“身体機能の変化”に関して、食生活、消化管機能を高齢者と若年者の間で比較・検討している。本論文は、それらの調査・研究の結果を詳細に記述し、またその結果に基づいた高齢者の食と栄養管理に対する具体的提言を行っており、生活科学研究科・長寿社会食生活学分野の博士論文として評価できる。

 第1章では高齢者と若年者の食生活、身体機能の比較研究についての文献調査を基に本論文の研究背景・研究目的について的確に述べている。

 第2章では、高齢者、若年者の食生活の現状を簡易食物摂取状況調査票により把握し、食品群別摂取充足率と食生活状況との関連を検討している。その結果から、筆者は高齢社会での「男性高齢者に対する栄養教育や食生活支援の必要性」と「男性に対する若年期からの十分な栄養教育の実施の必要性」を提言している。これらの提言は他の先行研究でも指摘されていることでもあるが大阪市・近畿圏を含む今回の調査研究において、それらの必要性を確認したことは評価できる。

 第3、4章では、糖質の消化吸収能力と食物の消化管通過時間の季節変化を若年者と高齢者の間で比較することにより消化管活動の加齢による変化を検討している。その結果から“健康高齢者”の糖質吸収に関係する消化管機能は若年者に比較して低くなく、加齢に伴って急速に低下することはないことを明らかにしている。また、糖質の非吸収率の季節変動性を明らかにしたことはヒトの消化管活動に概年リズムが存在することを実証しており、時間生物学の観点からも興味ある研究結果となっている。また、この研究結果は、女性における60代からの肥満率の増加の一つの生理的要因を示唆しており評価できる。

 第5、6章、では、それぞれ第3、4章の研究に参加した若年、高齢研究協力者を対象として、朝食摂取前後における胃の筋電活動のパラメーター、DFとNormal%を胃電図の周波数解析から求め、それらの四季における変化を比較・検討している。その結果、若年者、高齢者の朝食前後のDF値はいずれの季節でも有意な差がないことを明らかにしており、このことは食物の消化に影響するといわれている胃の収縮頻度を制御する筋電活動も加齢により低下しないことを示しており、第3、4章で得られた結果を支持するものとして評価できる。

 第7、8章、では、第3、4章に記述された日本人若年、高齢者を対象とした研究とほぼ同様の実験プロトコールと朝食を用い、ポーランド人若年者、高齢者の四季における糖質の非吸収率及び試験食の消化管通過時間を測定し、それらの季節変化についてポーランド・日本, 高齢者・若年者との間で比較・検討を行なっている。その結果、糖質の非吸収率に関して日本での研究結果“糖質の非吸収率には季節変動性が存在する”、“加齢による糖質の消化・吸収機能の顕著な低下はみられない”と一致し、この2点について生理人類学的に検証したことは高く評価できる。

 第9章では各章の概略を述べ、最後の第10章では第2章から第8章までの結果を総合的に検討して、高齢化社会における食と栄養管理に対する主な提言として、“男性に対する若年期からの十分な栄養教育の実施”、“高齢期における糖質過剰摂取への注意喚起”を挙げている。

 以上,本論文は高齢者の栄養不良をもたらす要因である“食物摂取状況の加齢による変化”と“身体機能の加齢による変化”に関して、高齢者と若年者の食生活の違い、高齢者と若年者の消化管機能の季節変動性とそれぞれの季節における比較を行い、その研究結果から高齢社会における高齢者の食と栄養管理に対する具体的提言を行っており、優れた成果をあげていると全編を通して評価できるものとなっている。以上のことから,博士(学術)の学位に値するものと認定した。


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