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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■01 Meraz,Ismail Mustafa(メラージュ)
・Afa/Dr遺伝子を保有しない分散接着性大腸菌の病因学的意義に関する疫学的研究
学位名: 博 士( 学 術 ) 論文審査委員: 主査 教授 谷 直樹
副査 教授 多治見 左近
副査 教授 藤田 忍
取得年月日: 平成20年3月24日

 
・論文審査の結果の要旨
 わが国で発生している食中毒の85%以上は微生物によるものである。また、原因不明とされているものも多くは未知の微生物などによると考えられている。食中毒の未解明事例を減らし、正確な検疫検査と品質管理によって食品の安全を確保していくためには、未知の病原体を解明することが大変重要な課題である。本論文は、これまで病原性の評価が定まらず、食品衛生上の意義が不明なままに放置され見過ごされてきた分散接着性大腸菌(DAEC)の病因学的意義を、病原細菌学的手法と疫学解析の併用によって解明しようとしたものである。

 本論文は3章から構成されており、第1章では、DAECの下痢原性について賛否両論あり結論に達しない理由として、全てのDAECを一括して下痢原性大腸菌(DEC)と見做す前提の合理性について検討を加えている。すなわち、DAECは腸粘膜上皮細胞への分散接着という事象のみに基づいて分類されているため、分散接着性が下痢を起こす必要条件であったとしても十分条件ではなかったとすれば、DAECは下痢原性のある菌と無い菌の混合グループであり統一的な結論は得られないとの仮説をたて、DAECの下痢原性に寄与し得る、分散接着性以外の第2の病原因子を探っている。

 フランスのグループが、分散接着に関与する因子の一つである非線毛性接着因子(Afa)の遺伝子(afa)を報告していたため、924名の下痢症患者を調査して得た40株のDAECを、afaを保有する株(afa DAEC)としない株(Non-afa DAEC)に先ず2分している。得られた21株のNon-afa DAECを研究対象とし、これらの菌株が、炎症性サイトカインの一つであるIL-8の産生を粘膜上皮細胞に誘導するか否か検討した。その結果、Non-afa DAEC 21株中11株(52%)はIL-8産生を強く誘導したが、他の株のIL-8誘導は低レベルにとどまることを明らかにした。低誘導株も高誘導株と同様に多数の菌が細胞に分散接着していたことから、Non-afa DAEC の起炎性は分散接着性のみで説明できるものではなく、菌株によって起炎性が異なるという仮説の証明に成功している。

 第U章では、IL-8誘導機構を探るために、高誘導株と低誘導株の間でその性状を細菌学的に比較検討している。高誘導株が、IL-8産生を誘導する機序を探れば、DAECの起炎性に寄与する第2の病原因子を明らかにし、簡便な食品検査法の開発にもつながると期待されるからである。その結果、各菌株の細胞侵入性とIL-8誘導性が相関する傾向にあること、細胞への侵入に際しては、アクチンや微小管などの細胞骨格の再構成が関与していることを証明している。

 第V章では、IL-8誘導性と下痢原性の関連を疫学的解析により検討している。尿路や胃粘膜の感染症では病原体がIL-8を誘導することが報告されており、腸についても同様である可能性は高いと考えられるが、Non-afa DAECのIL-8誘導性を直ちに腸炎あるいは下痢原性と結びつけることはできない。また、本研究は試験管内の培養細胞を用いた実験であり、生体内でIL-8の誘導が確認されたわけではない。そこで検出分離されたDAEC株の患者情報を遡り調査し、疫学的にIL-8誘導性と下痢原性の関係を推察した。

 一般に、幼児は成人に比べて感染症に対する感受性が高い。本研究でも幼児の腸管病原性大腸菌や腸管出血性大腸菌に対する罹患率は他の年齢層に比べ有意に高かった。そこで、DAECの検出率を幼児とその他の年齢層の間で比較した結果、IL-8高誘導性のDAEC株も5歳未満の幼児において検出率が有意に高く、IL-8高誘導性DAECが下痢症の原因となっているという申請者の仮説を強く支持する疫学データとなっている。

 DAECの下痢原性については不明な点が多いため、食品の衛生検査対象として扱われていなかった。上記の成果は、DAECの下痢原性を究明する糸口を与えるとともに、本菌が食品媒介感染症の原因の一つとなりうることを示唆しており、食品衛生学上の重要な基礎データを提示するものとして評価できる内容となっていることから、博士(学術)の学位に値するものと認定した 。


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