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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■07 鳥海 直美(トリウミ ナオミ)
・ホームヘルプサービスにおけるコーディネーターの機能と役割に関する研究
―サービス提供責任者の実践に焦点をあてて―
(A Study on Functions and Roles of Coordinator in Home-help-service −Focus on Practice of Chief Helper−)
学位名: 学術 論文審査委員: 主査 教授 白澤 政和
副査 教授 坂口 正之
副査 教授 山縣 文治
取得年月日: 平成18年3月24日

・論文審査の結果の要旨
 介護保険制度下の訪問介護事業所には、サービス提供責任者と称するコーディネーターが配置され、本人、ヘルパー、他職種との連絡調整を行いながら、サービスの質にかかわる一連の役割を担っている。このコーディネーターは1985年に主任家庭奉仕員制度が導入されて以降発展してきたが、体系的に機能や役割が明確化されることなく今日にまで至っているのが現状である。そのため、本論文では6章構成でもって、このコーディネーターの機能と役割を明らかにすることを目的にしている。具体的には、第1章と第2章で文献研究をもとに、コーディネーターの機能や役割について論議し、それをもとに、第3章から第5章では、自ら実施した3つの調査結果を分析することで、コーディネーターの役割や機能の構造や特徴を明確化する作業を行っている。最後の第6章は、以上の研究結果を踏まえて現状の課題と、今後への提案を行っている。

  第1章では、日本におけるコーディネーター機能の施策変遷過程を文献研究でもって明らかにし、施策上での課題について問題提起している。具体的には、コーディネーターは、ヘルパーの雇用体制や養成研修体制を含めた人材施策の推進、在宅福祉サービスの拡充などのコミュニティケア施策の充実、さらにはケアマネジメント・システムを含めたサービス提供体制の確立といった歴史的変遷に伴い、単にヘルパーへの指導的役割から、他専門職やケアマネジャーとの連携・協働、利用者との調整といった多様な機能を付加してきたと総括している。ただし、コーディネーターの役割は実質的に強化されてきたものの、その人員配置や職場環境は十分ではなく、役割を遂行するうえで多くの課題があること、またそれらの課題の背景には、介護報酬体系が直接業務に特化していることから、コーディネーターの人件費について明確な財政的基盤がないという施策上の重要な課題を指摘している。

  第2章では、ソーシャルワークおよびケアワークにおけるコーディネーターに関する概念を先行研究をもとに整理している。ソーシャルワークにおけるコーディネーションは関係調整機能であり、本人のニーズの充足に向けて、システム内の関係性の変容と調和を図る方法であるとし、今日のソーシャルワーク実践では、それらをケアマネジメントやネットワークという方法と関連づけてとらえている。一方、ケアワークの展開過程において、コーディネーションを含めたソーシャルワーク機能を活用することによって、ケアワークの実効性が高まることを指摘し、ケアワーク理論のなかにコーディネーションが体系化される必要性を示している。

 以上をふまえて、文献研究をもとに、コーディネーターの役割を、1.ニーズと社会資源の個人レベルでの関係調整、2.他機関・他職種との関係調整、3.ニーズと社会資源の制度・システムレベルの関係調整、4.本人とケア提供者との関係調整という4つの調整のレベルに大別し、コーディネーターを「ホームヘルプサービス提供組織において、本人、ヘルパー、他職種との間に協働関係をつくり、本人とヘルパーの関係調整と、他職種との連携・協働をとおして、ホームヘルプサービスの提供体制を整えながら、本人が地域で日常生活および社会生活を継続できるように支援する者」と定義した。同時に、コーディネーターは1.支援関係形成機能、2.ホームヘルプサービス調整機能、3.マッチング機能、4.ヘルパー支援機能、5.連携・協働機能の5つの機能を担う者とした。

  第3章では、第2章で理論的に整理したコーディネーターの5機能について、役割実践の程度を測定する5領域62の下位項目の尺度を作成し、それを用いてコーディネーターの役割実践の構造およびその関連要因について分析している。具体的には、訪問介護事業所のサービス提供責任者を対象に質問紙調査を実施し(有効回答率54.8%,回収数212票)、下位項目をバリマックス回転をともなう主成分分析を行い、12の役割因子を抽出している。この結果、コーディネーターに求められる5つの機能が12の役割因子において、一体的に実践されていることを明らかにした。具体的には、ホームヘルプサービス調整機能と連携・協働機能が一体的に実践され、ニーズとホームヘルプサービスを調整することと、ケアマネジャーや他職種と連携・協働することは分かち難く実践されていることを示し、その背景理由を考察している。

  コーディネーターの役割実践の構造に関連する要因を独立変数とする一元配置の分散分析から、コーディネーターの役割実践を確立するための課題を示した。具体的には、汎用化できる手順をマニュアルとして明示する一方で、研修を充実させていくことの必要性を明らかにした。同時に、そのような研修の開催を行政機関および専門職団体が支援することに加えて、コーディネーターの過不足のない雇用を可能とする財政的基盤を確保し、コーディネーターの職場環境を改善することの必要性を見いだした。 第4章では、コーディネーターとケアマネジャーの連携の現状を示し、ケアマネジャー側からとらえた連携・協働実践および困難感の構造を明らかにし、それをもとに両者の連携・協働実践の特徴とコーディネーターへの役割期待について考察している。具体的には、コーディネーターとケアマネジャーの役割関係に関する連携・協働実践および困難感の程度を測定する尺度を作成し、それらを用いて連携・協働実践の特徴とその困難状況を明らかにした。居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象に質問紙調査で実施し(有効回答率45.3%、回収数181票)、両尺度の15項目と17項目の下位項目について、それぞれバリマックス回転をともなう因子分析を行っている。その結果、両者の連携・協働の特徴として「ニーズの共通認識を図る協議」「ケアプランと訪問介護計画の整合性を図る調整」「ニーズの変化に応じた協働」を示した。同時に、その困難観は、「協力関係の形成阻害」「相互の役割の曖昧さ」「ケアプランとサービス提供内容の不一致」の3要因とした。

  この結果をもとに、両者の連携・協働実践を充実させるためのケアマネジャーのコーディネーターに対する役割期待として、1.生活場面での実際の支援内容についてケアマネジャーの理解を促す役割、2.生活場面で必要となる支援内容を予測しながら、柔軟性をもった計画を作成する役割、3.支援内容を決定する判断根拠をヘルパーに伝えながら理解を促す役割、4.ケアマネジャーからの情報提供がもたらす支援効果をフィードバックする役割、5.本人からの相談に柔軟に対応し、ケアマネジャーと課題を共有していく役割を明らかにした。第5章では、コーディネーターを訪問看護事業所の看護師および在宅介護支援センターの相談員と比較して、在宅高齢者のケアに必要とされる価値認識および情報認識の相違を明らかにし、多職種チームにおけるコーディネーターの役割特性やコーディネーターによる他職種との連携・協働のあり方を考察している。在宅高齢者に対するケア役割を規定する価値認識および情報認識の程度を測定する尺度をそれぞれ10項目と73項目の下位項目でもって作成し、郵送による質問紙調査を実施した(有効回答率56.8%,回収数681票)。バリマックス回転をともなう因子分析を行い、2つの価値認識因子、9つの情報認識因子を抽出し、これらを3職種を独立変数とする一元配置の分散分析および多重比較を行っている。この結果、価値認識については、コーディネーターは人権や生命を尊重する価値を他職種と同程度に認識し、本人の主体性を尊重する価値を相談職よりも認識していた。情報認識については、生活行動や生活様式の個別性に関する情報を他職種よりも認識していたが、医療的ケアやターミナルケアに必要とされる情報、ADLに関する身体情報は看護職程には認識していないことを示した。
社会資源や地域社会との関係状況などの社会的情報は、相談職と同程度に把握していた。

  これらの結果をもとに、コーディネーターによる自律的かつ主体的な連携・協働のあり方として、コーディネーターは生活習慣や生活観などの個別性にかかわる情報を記録し、必要に応じて他職種と共有しながら、ケアチーム全体で本人の生活意欲を高めていくこと、身体機能の維持・拡大に関連する方法や、医療的ニーズの高いケアでの緊急時対応方法等について適切な指導や助言を得ること、モニタリング機能を有効に活用することを提案している。

  第6章では、上述の研究結果より、ケアマネジメント・システムにおけるコーディネーターの役割の意義を検討したうえで、連携・協働実践およびシステム上の課題を提起し、さらには、コーディネーターに対する研修カリキュラム構築の視点を提示した。

  コーディネーターは身体介護や生活援助にかかわる相談支援のみならず、日常生活および社会生活にかかわる相談支援に関する役割を有しており、ケアマネジメント機能の一部を担っていることを実証的に示された。生活場面から提起されるコーディネーター側からのボトムアップの連携・協働には、ケアマネジメント・システムの硬直性を緩和させ、ケアワークとソーシャルワーク・システムを緊密につなぐ意義を示した。また、本人とヘルパーの関係性の変容や、本人の生活意欲が醸成されるようとらえようとすることは、コーディネーターによる本人理解のあり方の特徴であり、このような本人理解のあり方を他職種と共有することは、チームケア全体に実効性をもたらし、本人の主体的な生活の継続に寄与するとした。

  このようなコーディネーターの役割実践を充実させるためのシステム上の改善 すべき課題として、1.職場環境の改善、2.ヘルパー雇用体制および財政的基盤の 改善、3.社会資源の開発や制度の改善につながる連携・協働システムの整備と、 システム内での情報共有をめぐる合意形成、4.研修機会の確保を提案している。

 さらに、具体的に現任者研修のカリキュラムの視点として、インタープロフェッ ショナル教育の理念を参考にしながら1.連携・協働の技法、2.代弁や要請や交渉 などのコミュニケーション、3.ケアの理念、倫理的葛藤および役割葛藤の側面から提示している。

  以上の各章の内容には、新たに明らかになったオリジナルな知見が多数含まれており、ホームヘルプ事業のサービス提供責任者と呼ばれるコーディネーターの役割や機能について明らかにしただけでなく、こうした機能や役割を担っていくための困難な状況、また他の職種との価値観やアセスメント視点の相違を明らかにした。さらには、こうした機能を担うためのシステム上での現状での課題を的確に提示し、課題解決のためにあるべき現任研修の内容を提案している。

  以上のように、本論文は、今まで解明されてこなかった介護分野でのコーディネーターの業務を明確にし、それがコーディネーター今後の教育や実践に有効に活かされることでの貢献も大きく、博士(学術)の学位に十分相当するとの結論を得た。


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