トップページ博士号取得者一覧> 辻 寿一

[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■06 辻 寿一(ツジ トシカズ)
>
・公営住宅リノベーションに関する基礎的研究
―エレベーター設置を中心に―
(A Basic Study on Renovation for Public Housing −Focusing on the Elevator Installation−)
学位名: 学術 論文審査委員: 主 査 教授 藤田 忍
副主査 教授 多治見 左近
副主査 教授 森 一彦
取得年月日: 平成18年3月24日

・論文審査の結果の要旨
 近年、住宅供給の分野においても新規の大量供給の時代から既存ストックの活用の時代へと方向転換がいわれている。既存の集合住宅では個別住戸の改善工事にとどまらず共用部や外構を含めた団地全体の再生事業におよぶ、いわゆるリノベーション、が求められている。また高齢化が著しい公営住宅において居住者がその生活の質を維持しながら住み続けることの重要性も指摘されている。ここで問題となるのは、当該の公営住宅の多くでエレベーター(以下EV)が未設置であり、バリアフリーという点からは住み続けるための前提条件さえも満たしていないという事実である。こうした状況の中で近年行政はようやくEV設置工事に取り組み始めたが、実施されたEV設置に対する評価は割れ、またその費用負担の考え方についても混乱がみられる。このEV設置工事は、いわば大規模に行われている社会的な実験といえるが、これは試行段階であり、文字通り試行錯誤で手探りの状態と行ってよい。この現在進行形の貴重な事例を整理し、成果と教訓を引き出すことが緊急に求められている。

 本研究は以上のような問題意識にたって、公営住宅におけるEV設置工事に着目し、そこから集合住宅リノベーション全般に普遍化し得る知見を得ることを目的としている。

第1章では、既設公営住宅の改善事業の諸施策の内容を経年的に整理し、本研究の課題を絞り込んでいる。第2章では、全国の管理主体における住宅ストック活用の動向について整理、考察している。第3章では、階段室型住棟への階段室踊場着床型EV設置に対する住民の評価、管理主体の評価について分析、考察した。第4章では、階段室型住棟への階段室バリアフリー型EV設置について、現地調査や管理主体担当者へのヒアリング調査なども含めて分析、考察している。第5章では、階段室踊場着床型EVと階段室バリアフリー型EVの設置コストを総合的に比較、考察している。第6章では、階段室踊場着床型EVと階段室バリアフリー型EVに対する居住者の利用実態と評価について比較検討した。第7章では、EV設置に伴う家賃・共益費の負担について分析、考察した。第8章では、EV設置後の上下階家賃算定の考え方について検討した。第9章補論では、海外におけるEV設置をはじめとした集合住宅リノベーションの特徴を整理、考察している。第10章では、各章で得られた知見をまとめ、公営住宅におけるEV設置リノベーションを通して、新築とは異なる集合住宅リノベーション全般に関わる特質やその問題点と課題について整理、考察した。

本研究は公営住宅におけるEV設置工事という極めて今日的で具体的な事業を対象に、その実態を鮮やかに整理し、設置タイプによる利用実態や居住者、管理主体の評価の違いを分析し、コストを比較し、更に利便性係数による家賃算定という制度面からの検討も行い、集合住宅リノベーション全般に通じる知見を得ている。そして、現時点では階段室バリアフリー型EV設置、とりわけ既存住戸区画型EV設置の優位性と可能性について明快に導き出している。

すなわち、本論文は以上のような貴重な学術的成果を上げており、本審査委員会は本論文を博士(学術)の学位を授与するに値するものと認定した。


このページTOPへ

back number