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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■04 井奥 加奈(イオク カナ)
・野菜に含まれるフラボノイド配糖体を中心とした機能性成分の調理過程における含有量変化と消化・吸収過程における挙動
学位名: 学術 論文審査委員: 主査 教授 西成 勝好
副査 教授 湯浅 勲 
副査 教授 小西 洋太郎
取得年月日: 平成18年3月24日

・論文審査の結果の要旨
 野菜には、食物繊維やミネラル・ビタミンなど不足しがちな栄養素とともに生体内脂質過酸化抑制作用やDNAの酸化的障害抑制作用などを有するフラボノイドが含まれている。ゆえに健康を維持するうえで、野菜は積極的に摂取したい食品のひとつである。野菜に含まれるフラボノイドそのものの生理活性や活性発現機構に関する報告は多いが、日常的な調理過程におけるフラボノイド含有量の変化や吸収過程を検討した例はまだ少ない。また,野菜類にはフラボノイドの配糖体が多く含まれていることを考慮すると、野菜に含まれるフラボノイドの配糖体に関して、調理の過程における含有量変化や吸収過程に関する検討を行う必要がある。さらにフラボノイドの配糖体にも異性体が存在することから、異性体に関して吸収に対するアプローチが必要であるが、これに関してはほとんど検討されていない。そこで野菜に含まれているフラボノイド配糖体のなかから異性体も含めてケルセチン配糖体に着目し、調理の過程における含有量変化や吸収過程へのアプローチとしてラット小腸由来のβ‐グルコシダーゼ活性について検討した。

本論文は実験方法(第2章)を含めて6章から構成される。

第1章では、女子大学生および中高年女性に対して野菜の摂取に関する実態調査を実施し、日常の家庭における野菜の調理は簡素化しており、「煮る」「焼く」「炒める」「生食」が主たる調理操作であることを示している。

第3章では,野菜中のフラボノイド含有量の季節変動に一定の傾向がみられないことを市販ピーマンで明らかにし、,さらに、ピーマン、タマネギ、ブロッコリーに含まれるケルセチンを中心としたフラボノイド含有量に及ぼす調理操作の影響を論じている。タマネギを炒める調理において、使用油脂はフラボノイド含有量に対して著しい影響を与えないこと,鉄製のフライパンで調理した場合には、フッ素樹脂加工のフライパンで調理した時に比べてケルセチン-4'-グルコシド(Q4'G)が減少することを示し、,これは褐変反応に伴う減少であることをモデル実験により明らかにしている。野菜や調理器具から溶出する成分や調味料となる化合物を7種類選び、煮汁に対して1%添加し、タマネギを調理したモデルにおいては、鉄イオンとシュウ酸の添加によりケルセチン配糖体含有量が減少することを確認した。シュウ酸の添加によるタマネギ中のケルセチン配糖体含有量の減少と遊離型ケルセチン量の増加は煮汁のpHが2以下になり,酸加水分解が生じたためと考えられた。鉄イオンの添加による調理タマネギ中のフラボノイド含有量の減少に関しては、,実生活に近いモデルとして鉄含有食品(芽ヒジキ、牛モモ肉)の添加,鉄製鍋の使用によるタマネギ調理のモデル実験を行い、煮汁中に生成する『あく』にフラボノイド配糖体が吸着される現象を確認した。電子レンジで加熱調理されたタマネギのフラボノイド含有量も変動しにくいことを確認し、日常的に用いる主な調理においてタマネギのフラボノイドは大幅に変動しないことを明らかにしている。

緑黄色野菜のゆで調理における食塩の添加効果について、フラボノイド含有量との関連を検討する目的で14種の緑黄色野菜を1%の食塩濃度で調理して比較した。ブロッコリーに関して煮汁の1%の食塩を添加し、3分調理することで、加水分解して得られるブロッコリー中の総ケルセチン含有量が調理時間0分に対して1.4倍になる(食塩無添加の場合は0.4倍になり、,増加しない)ことを見出した。そこで、ブロッコリー中のポリフェノール酸化酵素(PPO)活性に、食塩の添加が影響しているのではないかと考え、ケルセチン配糖体を基質としたブロッコリー由来のPPO活性について検討した。Q4'Gを基質としてPPOを反応させるとQ4'Gはほとんど減少せず、,ケルセチンを基質とした場合でもケルセチンは80%残存したが,Q4'Gとクロロゲン酸の溶液にPPOを添加するとクロロゲン酸の急激な減少とQ4'Gの減少傾向が確認された。ゆえに、フラボノイド配糖体のみではPPOの基質にならないが,クロロゲン酸を含む野菜の場合は,クロロゲン酸とPPOの反応に関連して野菜中のフラボノイド含有量が変動する可能性が示唆された。

第4章では野菜類に含まれる抗酸化性配糖体のラジカル捕捉活性と生体内抗酸化性について述べている。シソ科香辛料マジョラムから単離されたアルブチン(p‐ヒドロキシフェニルβ-グルコシド)を用いてフェノール性化合物の配糖体化によるラジカル捕捉活性への影響を検討し、配糖体化は水溶液における脂質過酸化に対して有効であることを示唆している。野菜に含まれるケルセチンのグルコース配糖体に関して糖の置換位置の相違がラジカル捕捉活性に及ぼす影響を検討している。非極性溶媒中において,ラジカル発生剤AMVNを用いてリノール酸メチル(ML)を酸化させ,それに対するQ4'G、ケルセチン-3-グルコシド(Q3G)、ケルセチン-7-グルコシド(Q7G)の酸化抑制活性(ラジカル捕捉活性)を検討した結果、Q4'GはMLの酸化をほとんど抑制しなかったことからラジカル捕捉活性が低いと考えられた。また,Q3Gは、一定期間MLの酸化を抑制し,ML過酸化物の生成量が少しずつ増加した。一方,Q7GにはQ4'GやQ3Gのような傾向はみられなかった。以上のことから、C環3',4'位のo-ジヒドロキシフェノール構造がラジカル捕捉に関する中心部位であり、C環3位の水酸基がラジカル捕捉活性を持続させる部位であることを解明している。この傾向は水溶液におけるラジカル発生剤AAPHによるリン脂質リポソームの過酸化抑制においても同じであった。本研究によりケルセチンのラジカル捕捉部位が初めて明らかになった。

第5章では、ケルセチン配糖体の消化・吸収に関する基礎的検討を行っている。

Fe2+依存性の脂質過酸化反応におけるラット胆汁膵液中のビリルビンやタウロコール酸ナトリウムの抗酸化性を検討し、消化液に存在する抗酸化性物質が脂質過酸化反応に及ぼす影響を明らかにている。

さらに、本研究ではケルセチンのグルコース配糖体は小腸に存在するβ‐グルコシダーゼにより加水分解され、糖の置換位置が酵素活性に影響することを初めて明らかにしている。特にQ4'Gに対してはQ3GやQ7Gよりも2倍近く高い加水分解活性を確認している。ルチンに対する加水分解活性はグルコース配糖体より低い傾向にあったことから、小腸で加水分解されるのはグルコース活性は配糖体であることを推察している。このことから、野菜のなかでもケルセチンのグルコース配糖体が多いタマネギは効率の良いケルセチン摂取源であることを再確認している。

第6章では、緑黄色野菜に含まれるケルセチン配糖体の吸収と調理形態の関連について論じている。中高年女性の菜食者と対照者に関して、フラボノイド摂取量と血漿ケルセチン濃度の関連を検討している。菜食者における菜食実践期間中の野菜摂取量は512g/日(緑黄色野菜400g/日)であった。菜食実践終了時と同時期における対照者の野菜摂取量は294g/日(緑黄色野菜131g/日)であった。一方、ケルセチン摂取量は菜食者、対照者とも平均値がおよそ25mg/日でほとんど同じであった。これは対照者の多くが緑茶由来のケルセチンを摂取していたためと考えられた。血漿ケルセチン濃度においては菜食者が0.76±0.84 M,同じ時期の対照者が0.15±0.12 Mで有意な差が認められた(p<0.05)。また、菜食を40日間実践することで、平均0.556 Mの血漿ケルセチン濃度の上昇がみられた。ゆえに、野菜類の積極的な摂取は血漿ケルセチン濃度を上昇させるうえにおいて効果的であると考えられた。また、調理形態は対照者で比較すると血漿ケルセチン濃度のみかけの増加量にほとんど影響していないと考えられた。

総括では以上の研究結果をまとめ,今後の展望を述べている。

以上、本論文は野菜に含まれるフラボノイド系機能性成分に関して、野菜類の日常的な調理過程におけるケルセチン含有量の変動,及びラット小腸由来のβ‐グルコシダーゼ活性の相違を中心に検討したものである。調理過程における野菜のケルセチン含有量について,タマネギやピーマン,ブロッコリー等のケルセチン配糖体含有量と加水分解して得られる量を詳細に調べた結果,ケルセチン配糖体が日常的な調理によって加水分解されることはほとんどなく,配糖体のまま摂取されることを確認している。また、食物中のフラボノイドは消化液中の抗酸化性物質によって脂質過酸化が生じても保護される可能性があること、小腸においてケルセチンのグルコース配糖体はβ‐グルコシダーゼによって加水分解されたことを見出している。小腸由来のβ‐グルコシダーゼに加水分解されたのはグルコース配糖体のみで、ルチンではほとんど加水分解されないことを示している。ケルセチンはタマネギ以外の野菜では緑黄色野菜にも多く含まれている。緑黄色野菜の積極的な摂取によりケルセチンが血中に蓄積されたことは,食生活指針に基づいた野菜の摂取が機能性成分の効率の良い摂取にもつながることを再確認させるものである。

以上のことから、審査委員会はこれらの成果は食品機能科学分野において重要な知見を見出したものと判断し、本論文が博士(学術)の学位を授与するに値するものと認めた。


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