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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■02 福井 貞亮(フクイ サダアキ)
・要援護在宅高齢者の生活課題に関する研究:高齢者本人の視点に基づく生活課題の構成内容とそれに関連する個人及び環境要因に焦点をあてて
学位名: 学術 論文審査委員: 主査 教授 白澤 政和
副査 教授 畠中 宗一
副査 教授 山縣 文治
副査 助教授 岡田 進一
取得年月日: 平成17年12月26日

・論文審査の結果の要旨
 本論文は、在宅で生活をしている高齢者が日常生活における困りごとである生活課題をいかに感じるかを、実証的に明らかにしたものである。具体的には、1.高齢者の身体状況や心理状況から、日常生活において感じている生活課題の明確化、2.日常生活において高齢者が感じている生活課題を測定する尺度作成、3.高齢者が日常生活における生活課題をどのような身体・心理・社会状況のもとで感じるのかの明確化、4.日常生活において感じている生活課題と生活満足度との関連の明確化、の4点である。

 高齢者自身が感じる困りごとである生活課題はフェルト・ニーズ(体感的生活課題)とされ、社会福祉専門職が捉えるニーズと対置され、支援過程において両者のニーズを統合していくことが重要であるとされている。そのため、高齢者が感じる生活課題を専門職が把握することは、社会福祉の専門職支援や時には政策立案において不可欠であるにも関わらず、今日までこうした視点からの実証的研究は全くと言っていいほど取り組まれていないのが現状である。その意味では、本論文は先駆的な研究として意義がある。

 本論文は6章構成と成っており、第1章では、高齢者の生活課題について文献リビューをもとに整理し、高齢者自身が感じている日常生活における生活課題を専門職が把握しておくことが、円滑な支援関係を築いていく上で不可欠であること、身体・心理・社会状況を背景に生活課題が感じられること、および社会福祉支援において生活課題と生活満足感との関連を明確化することの重要性を、指摘した。ここでは、多くの海外の文献を駆使し、高齢者の生活課題発生背景について、今まで十分整理されてこなかった文献を体系的に概念整理している点に意義がある。

 第2章では高齢者の基本的な生活行為とされる「排泄」「入浴・清潔保持」「食事」が困難となる背景にはどのような身体・心理状態があるのか、さらにはそれらの行為についてどのような状況にある高齢者が支援を受けるのかについて実証研究している。重回帰分析の結果、前者の日常生活が困難になる背景には「基本動作」や「認知」があること、後者の支援を受ける背景には高齢者本人の身体状態だけでなく、「行動障害」や「高齢者を取り巻く環境状況」が関連している可能性を示唆した。社会福祉専門職が高齢者の生活課題を把握し、支援していく際には、高齢者の身体・心理といった個人要因だけではなく、環境要因をも把握しておくことの重要性は、理論的には広く言及されてきたことであるが、これを量的調査から実証した意義は大きい。

 第3章では高齢者自身が感じている生活課題の測定尺度を作成し、さらに尺度を構成する領域間の関連性を明らかにしている。「困りごと」の測定尺度として、「基本的生活行為」「手段的生活行為」「健康管理」「在宅生活における心理的な状態」「支援の授受」の5領域12下位尺度(44項目)を作成し、各領域を構成する「困りごと」尺度の構成内容を主成分分析(バリマックス回転)し、「基本的生活行為」では「入浴整容・排泄」「食事」、「手段的生活行為」では「日常家事」「金銭管理」、「健康管理」では「日常的な運動」「医学的管理」、「在宅生活における心理的な状態」では「緊急時不安感」「他者との適度な距離感」「現在の在宅生活への肯定評価」「在宅生活での不安定感」、「支援の授受」では「支援の提供」「求めない支援の受領」による尺度の内容妥当性があることを示した。さらに、各領域間での関連性を相関分析から、「困りごと」領域間での相互関連性を確認している。本章での成果は、高齢者の「困りごと」を測定するための内容妥当性と信頼性(内的一貫性)を有した尺度を作成したこと、さらに各困りごと領域間での相互関連性の高さから、高齢者自身の困りごとを把握するためには、身体面だけでなく、心理・社会面での困りごとについても把握しておくことの必要性を示したことにある。

 第4章では生活支援の対象となる「入浴整容・排泄」や「食事」といった「基本的生活行為」、「日常家事」や「金銭管理」といった「手段的生活行為」について、高齢者本人がどのような状況を背景にして生活課題を感じているのかを個人要因(日常生活動作能力、認知症度、健康度自己評価、うつ傾向)と環境要因(同居者の有無、主介護者の有無、人間関係の良好さ、家屋内段差箇所)から明らかにした。重回帰分析の結果、「入浴整容・排泄」では「日常生活動作能力」や「うつ傾向」という個人要因、「食事」については「日常生活動作能力」や「うつ傾向」以外にも、「人間関係の良好さ」といった環境要因について把握することの必要性が示された。「日常家事」については、個人要因として「健康度自己評価」や「うつ傾向」、環境要因として「同居者の有無」や「家屋内段差箇所」について、「金銭管理」については「健康度自己評価」や「認知症度」という個人要因について把握しておくことの必要性が示された。ここでの評価は、「基本的生活行為」や「手段的生活行為」の高齢者自身の困りごとの内でも、個人要因のみで困りごとが明らかになるものと、個人要因と環境要因の両者でもって明らかになるものがある知見を得、その理由を明らかにしたことである。

 第5章は3章で作成した困りごとの尺度変数をステップワイズ法による重回帰分析により生活満足度との関連性を明らかにしたものである。その結果、高齢者の生活満足度には、「支援の授受」領域における「支援の提供」に関する困りごとと、「在宅生活における心理的な状態」領域における「現在の在宅生活への肯定評価」と「緊急時不安感」についての困りごとが関連あることを示した。本章に対する評価は、高齢者の生活満足感は高齢者自ら主体的に社会に関わることで、支援関係での互酬性を保つという社会的領域とともに、日常生活の時間の多くを過ごす居宅での生活についての認識や、緊急場面状況に対する不安感という心理的な領域での困りごとに配慮することが重要であることを示唆したことにある。

 第6章は本調査研究で得られた知見をもとに、社会福祉支援専門職は、1.基本的な生活課題について高齢者自身が感じている生活課題を的確に把握すること、2.生活課題について個人要因と環境要因とから把握すること、3.生活の主体的側面と満足感について把握すること、の重要性を指摘した。

 本論文に対する全体的な評価としては、高齢者が感じている生活課題を量的な手法を用い尺度化し、生活課題に対する高齢者の主体的な認識を問うことで、従来断片的に理解されてきた高齢者の生活課題について身体・心理・環境的背景が理解できること、高齢者自身の生活課題に対する主体的な位置づけが生活満足感との関係でより明確にできたことにある。本論文は新たな研究領域に切り込んだ先駆的研究ゆえに試論的側面もいなめないが、社会福祉援助において個人要因や環境要因に関する高齢者の認識を反映した研究を一層発展させていくことに結びつくだけでなく、社会福祉領域で遅れていた高齢者本人の視点に基づく生活課題を把握する指標開発を行っていく上でも、今後の研究の発展に大きく寄与できるものである。

 以上のことから、本審査委員会は本論文が博士(学術)の学位に値するものと認めた。


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