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[生活科学研究科] 博士号取得者の紹介

■01 長濱 輝代(ナガハマ テルヨ)
・母親の産後うつに対する臨床心理的援助
―新生児集中治療室における臨床心理的援助モデルの構築―
学位名: 学術 論文審査委員: 主査 教授 松島恭子
副査 教授 岩堂美智子
副査 教授 新平鎮博
取得年月日: 平成17年12月26日

 
・論文審査の結果の要旨
 乳児期早期の母子関係形成については、母親の精神的健康の側面から多くの研究が行われている。マタニティブルーズや産後うつ病などの気分障害が子どもの人格形成におよぼす長期的影響の問題が、最近の臨床心理学的トピックスとなってきた。

 本論文は新生児集中治療室(NICU)という人生最早期の母子形成の現場に焦点を当てながら、母親の産後うつの実態調査による基本的研究と、著しい精神的健康度の悪化がみとめられた母親への臨床心理的援助の分析を通して、筆者独自のシステマティックな枠組みと技法を論考している。本論文は母子心理臨床への新たな視点および方法を提言したものであり、その点において、同領域の先行研究とは一線を画したオリジナリティを有するものと評価しうる。

 本論文は、序章と4部で構成されている。

 第T部では、筆者が担当した幼児期から思春期の母子心理臨床事例の分析を通して、乳児期にすでに重篤な母子関係障害の萌芽が存在することを論考し、乳児期初期における臨床心理的援助の予防的介入の重要性を指摘した。

 第U部では乳児期の子どもを持つ母親の精神的健康度について縦断的調査を行い、産後うつ病が疑われる母親の心理・行動特性の抽出を行った。乳幼児健診受診児の母親を対象にエジンバラ産後うつ病質問票を用いた調査により、先行研究とほぼ同様の発生率(15−20%)を見いだした上で、より早期のスクリーニング検査の重要性を指摘した。産後うつがより高得点を示す「NICU入院児」の母親を対象として、産後うつへの関連要因分析を行い、母親自身の産科学的要因よりも、子どもの手術の有無や子どもの同胞の問題などが要因として強く影響していることを見いだした。母親の心的内界の懊悩に関して事例分析を行った結果、強い葛藤や自責感・罪悪感などを主とした母親の心理的特徴を明確化した。

 第VI部では、NICUにおける母子心理臨床(臨床心理援助の実践)を行い、NICUという特殊な臨床現場での臨床心理士の役割について、1.母子ユニットの形成、2.危機介入的視点という2つの視点から考察を行った。母子ユニットの形成をめざして、臨床心理士が母親の「語ることのできない本音の部分」をともに味わい、それを認め、受け止めることの重要性を指摘した。また、母子関係形成における危機的側面を、成長促進可能性を有する「分かれ目の時」としてとらえ、機を逃さずに臨床心理的介入を行うことが、ポジティブな母子関係形成に有効であることを明らかにした。

 第W部では、第III部までの基礎的研究ならびに心理臨床実践を総合的に考察し、さらにNICUという独自の心理臨床現場に認められる医療関係者と臨床心理士との重層構造的な位置づけを明らかにした上で、母子関係の発達に応じて変化する臨床心理士の役割とそこで特殊に求められる技法とを、筆者独自の視点からシステマティックに6段階の発達の層としてモデル化し、臨床心理士独自の役割を示した。

 本論文では母親の産後うつが早期母子関係形成におよぼす影響の重要性に着眼し、基礎的調査研究と心理臨床実践という基礎と実践の両方を含みながら、とくにNICUでの臨床心理援助の理論的枠組みと技法に関するモデル化を試みており、先行研究をさらに発展させる可能性を持つ実証研究と言いうる。また、これらの点において、臨床心理学研究とくに早期母子臨床の領域における今後の研究の発展に大きく寄与するものと考えられる。

以上のことから、本審査委員会は本論文が博士(学術)の学位に値するものと認めた。


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